Appierが新型コロナウイルス対策でのAI利用の重要性

地理空間データとEHR連携、画像診断による高速検査が有効

 2020.04.02−人工知能(AI)テクノロジー企業のAppier(エイピア)は3月31日、チーフAIサイエンティストのミン・スン(Min Sun)氏によるプレス向けセミナー「医療、ヘルスケア分野でのAI利用の重要性」をオンラインで開催した。世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症に対して、AIに何ができるかを解説、今後の提言も行った。スン氏によると、予防や診断で有用な機能性が認められるため、積極的にAIを取り入れるべきだと述べた。

 ヘルスケア領域で利用されているAIにはすでにいくつかの事例がある。アラバマ州の大病院では、再入院のリスクが高い患者を特定するためにAIを活用。個人の医療・健康にかかわるさまざまな情報を蓄積した電子健康記録(EHR)から、入院期間や入院時の緊急性、併存疾患、救急外来の受診歴などのデータを学習し、スコア付けして分析している。ハイリスクの患者への対応を事前に計画しておくことで、年間1,300万ドルを節約したという。

 また、AI創薬の成功事例も出つつあり、強迫性障害(OCD)治療薬が、AI創薬の成果として世界で初めて今年1月、ヒトでの臨床試験に入った。これは、大日本住友製薬と英エクセンシアの共同研究で創製された化合物で、AIが選抜した350種類の化合物を合成するだけで発見に至ったという。通常は4年半ほどかかる過程だが、AIによってわずか12ヵ月で治験入りすることができた。

 さて、今回のコロナウイルスとの関係では、中国や韓国、台湾において、検査で陽性になった人の行動を地理空間データとして公開するのにAIを応用した事例がある。これをみることで、同じ時間帯の同じ場所に自分がいたことがわかるので、検査が必要かどうかをはっきり確認することができる。スン氏は、地理空間データとEHRを組み合わせたAI予測モデルを利用することで、「市内全域などの極端なロックダウンをせず、経済的なダメージを抑えつつ、検査や隔離、医療リソースの割当てなどの優先順位付けを行うことができる」と話す。また、「市民が個人情報を提出したくない場合でも、自分の端末にアプリをダウンロードするかたちなら抵抗感が薄いのではないか。(端末内で自分のリスクを確認するだけで)個人情報をクラウドに出さないこともできる」とした。「日本にもこれを行う技術もデータもあるが、複数の企業や研究者が協力しないとできないので、政府がイニシアチブをとらなければ難しいだろう」とも。

 また、空港やイベント会場などでサーモイメージを利用した発熱者の割り出しが行われているが、「これだと、熱いコーヒーを持っていても反応してしまう。顔や全身を認識するAIを組み合わせれば精度の高い判定が可能」。防犯カメラ映像を用いて、病院内などで手洗いの不十分な人が特定のエリアへ侵入する際に注意喚起するようなアプリケーションも実用化されているという。

 さらに、診断でAIが役に立つとも指摘する。コロナへの感染を判定するPCR検査は時間がかかるため、CTスキャンデータをAIで画像診断し、肺炎の有無を判定するシステムを有効活用すべきだとした。判定率は非常に高く、数百枚の画像を医師がみるのは時間がかかるが、AIは数秒で答えを出すという。

 そのほか、AIスタートアップの米グラフェンがコロナウイルスの変異のゲノム分析を行っていると紹介。世界中から報告されている3,000件あまりのゲノムシーケンスに基づき、1,500種類の異なる株を発見したとしている。これを利用して、製薬会社が創薬ターゲットをより良く特定したり、ウイルスの拡散速度を予測したり、特定の変異体の有害性を予測したりすることが可能になるという。

 また、治療薬開発に役立つ研究として、遺伝子配列からタンパク質の立体構造を予測するシステム「AlphaFold」が開発されている。薬物がコロナウイルスに結合できる部位の立体構造をこの方法で予測することが可能。これとの関連性は不明だが、IBMがスーパーコンピューター「サミット」を利用した分子モデリングとシミュレーションでコロナウイルスに作用する候補化合物77種を発見した例もある。これは、COVID-19 High Performance Computing Consortiumの成果になるようだ。

 スン氏はさらに、「コロナウイルス関連の4万4,000以上の学術記事を集めたデータセットもまとめられている。これを人間が読むのはたいへんだが、AIで解析することで短時間で洞察を引き出すことが可能になると思う」とした。

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 今後取り組むべきこととしては、「まずは、AIを活用した予防ソリューションを積極的に取り入れるべきだと思う。短時間で大量の診断ができるAIによる画像解析は、すぐに導入できる。既存薬の中に効くものがあれば幸運だが、創薬の面でもAIは貢献できる。多様な領域においてデータを活用した意志決定にAIが有効なので、政府はこの分野に優先的に投資してほしい。市民のみなさんにもAIに期待してほしいが、あまり楽観的になってもいけないし、悲観的になるのもよくない。両極端は避けてください」と呼びかけた。





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<関連リンク>:

Appier(日本語トップページ)
https://www.appier.com/ja/

米グラフェン(コロナウイルスモニタリングのページ)
https://www.graphen.ai/covid.html

DeepMind(AlphaFoldのブログ記事)
https://deepmind.com/blog/article/AlphaFold-Using-AI-for-scientific-discovery

IBM(ニュースページ)
https://newsroom.ibm.com/IBM-helps-bring-supercomputers-into-the-global-fight-against-COVID-19


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