2020年夏CCS特集:TSテクノロジー
MI関連受託研究で実績、デジタル駆動化学で国プロ
2020.07.15−TSテクノロジーは、計算化学を専門とする山口大学発ベンチャーとして、量子力学(QM)、分子動力学(MD)、人工知能(AI)/マテリアルズ・インフォマティクス(MI)などのコア技術を生かし、特異なポジションを確立。昨年からは山口と東京の2本社体制で業績を伸ばしている。
同社は、決まったメニューの計算をネット経由で受注・迅速に結果を返す「クイックオーダー」から、テーマに即してきめ細かく対応する受託研究型の「フルオーダー」、一定期間の専従体制で研究協力する「包括連携契約」(FTE契約)まで、ニーズに応じた幅広い受託サービスを用意している。最近、テーマとして多いのがMI関係で、研究のための基盤構築、機械学習に使用するデータの整備、予測モデルの構築などをFTE契約で実施したなどの事例がある。
同社では、MI研究の国際競争力を高めるために、分子設計から合成経路設計、新規材料の合成・製造までの一貫したシステム開発が必要だとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「新産業創出新技術先導研究プログラム」に応募、2020年度プロジェクト「デジタル駆動化学による機能性化学品製造プロセスの新基盤構築」として採択された。これは同社が主導し、産業技術総合研究所、山口大学、大阪府立大学、東京大学の研究グループとの共同で実施されるもの。
AI応用で設計した分子に対し、可能性のある合成経路を探索し、量子化学による反応解析計算で各経路の妥当性を評価、選び出した最適な経路を自動合成などへと結びつけていく。計算結果はデータベース化し、機械学習に利用して分子設計にフィードバックする。最終的には、設計した新規機能性化合物が1カ月以内に工業生産を開始できる体制に持っていくことを目標としている。日本の独自性・優位性を生かせるコンセプトでのシステム化を狙っていきたいとしている。
また、同社では計算化学の有効性を実証するため自社での研究活動も行っており、最近も新しい論文が「Journal of Molecular Liquids」に掲載された。タイトルは「Simulations of dielectric constants and viscosities of organic electrolytes by quantum mechanics and molecular dynamics」で、二次電池の電解質で重要な誘電率と粘度を計算だけで予測することに成功したというもの。電解質の場合、g因子と呼ばれ、分子集合体として会合した状態の効果が働くため、量子化学計算で孤立分子を解いても、実際と計算が合わない。そこで今回の研究では、MDシミュレーションを大量に実行してg因子の効果を導入し、QMによる計算結果を組み合わせて誘電率を算出した。実際に17種類の有機電解質についてこの手法を評価し、有効性を確かめた。新しい電解質の予測にも対応することが可能だという。