2020年冬CCS特集:第1部総論(業界動向)

研究開発デジタル化の時流に乗り成長持続

 2020.12.02−コンピューターケミストリーシステム(CCS)は、化学・材料開発や創薬研究を支援するソリューションとして裾野を広げている。コロナ禍でも成長しているベンダーが多く、ユーザーである研究所などにおいても、実験よりもリモートでも行いやすい計算への需要が増加している。また、オンラインで研究ができるコラボレーションプラットフォーム製品への関心も急速に高まってきた。デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の時流もあり、この機に研究所および研究開発体制全体のデジタル化を進めようという動きも強まっている。CCSベンダー各社もこうした市場の変化に対応した製品戦略を強化しつつある。

                 ◇       ◇       ◇

◆◆ELNでラボデータ集約、リモート研究環境が人気◆◆

 CCSは大きく分けて、分子構造の設計を行い、特性などを計算・予測するモデリング&シミュレーション系のシステムと、研究に必要な各種情報を集め、データを中心にした管理や活用を図るインフォマティクス系のシステムがある。近年、人工知能(AI)や機械学習が注目され、データ駆動型の研究開発が推進される傾向になっており、インフォマティクス系システムの導入や再構築が盛ん。とくに、電子実験ノート(ELN)がさまざまなデータを集約する役割を果たしてきている。もともとは、創薬研究における合成実験のデータを記録することが目的だったが、記録対象が生物学的な試験や品質管理のための試験などにも広がるとともに、低分子薬だけでなく、バイオ医薬品の研究に関わる各種情報も取り扱えるようになってきている。

 とくに、最近の傾向として目立つのが、ELNとラボ内の実験・計測装置との連携。具体的に、機器メーカーがELNを買収したケースに、ケンブリッジソフトを吸収してインフォマティクス事業を立ち上げた米パーキンエルマーがある。ラボワークス、ラボトロニクス、アルタスラボなどのベンダーも買収し、ラボデータを広く集約するプラットフォーム構築を進めてきた。核磁気共鳴装置(NMR)で有名な米ブルカーも、クラウド型ELNで実績のあるアークスパンを買収。出資しているメストレラボの技術を利用して、ラボ機器のデータをELNに吸い上げるソリューションを開発している。NMRだけでなく、質量分析計(MS)、ガスクロマトグラフ(GC)、液体クロマトグラフ(LC)など、メーカーを問わず対応可能になるという。

 逆に、ELNを開発している英ドットマティクスは、今年米バイオブライトを買収し、ラボ機器のデータを全自動でクラウド上に登録するシステムとの統合を図っている。各種分光計やハイコンテンツスクリーニング(HCS)などに対応しており、巨大なデータファイルを効率良く転送する技術を持つようだ。

 一方で、遠隔地にいる研究者同士がオンラインでコラボレーションしながら設計や解析を行うオンラインプラットフォームへの関心が高まっている。コロナ禍でのリモートワークにぴったりとはまった形で、問い合わせが急増している。まずは、米シュレーディンガーの「LiveDesign」。ウェブ上で情報共有しながら化合物デザインを共同で行い、その経過を記録していけるシステムで、登場したのは2014年と早かったが、今年日本での初めての導入が決まった。おそらく、グローバルで研究グループが物理的に離れており、オープンイノベーション型で外部機関やアカデミアとの研究コラボが多い欧米のメガファーマのニーズで開発されたものだと思われるが、日本においてもコロナ禍で必要とされる機能にマッチしたということだろう。

 また、ハンガリーのケムアクソンも、オンライン化合物デザインプラットフォーム「DesignHub」を製品化した。描画中の構造に関する計算結果、内外のデータベース検索結果をリアルタイムで表示し、情報に基づく意思決定をサポートする。化合物の優先順位をカンバンボードでわかりやすく整理することができるという。代理店であるパトコア、そのパートナーの富士通は、リモートワークに最適な研究環境として提案活動に力を入れる方針だ。

 富士通はまた、米ナノム(Nanome)の販売権も今年獲得した。これは、仮想空間会議機能を持つバーチャルリアリティ(VR)システムで、専門領域の異なる創薬研究者(結晶化学、構造解析学、分子設計学など)が、立体的な化学構造を扱いながらリモートで議論する場を提供できる。会議室には自分のアバターが入室する形となるが、ゲーム感覚というわけではなく、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)を使って外部のモデリングソフトの組み込みも可能となっている。

                 ◇       ◇       ◇

◆◆コロナ禍で高長ベンダーも、新規顧客開拓に課題◆◆

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、グローバルにも大きな影響を及ぼしているが、成長に衰えのないベンダーも少なくない。例えば、株式公開している大手の中では、米シュレーディンガーは今年1〜9月累計で売り上げは7,500万ドルの前年同期比25.7%増。第3・四半期のソフトウエア収入だけでみると、41.8%増という伸びをみせている。また、米シミュレーションズプラスの2020年度(10月期)は売り上げ4,160万ドルの22.4%増を記録している。

 CCSnewsでは、コロナ禍での事業実態について国内CCSベンダー約40社にアンケートを取り、24社から回答を得た。ここでその内容を紹介したい。

 まず、コロナで春の学会などはすべて中止になったが、秋の学会はオンラインで実施されているものが多い。各種学会での展示や講演はベンダーにとって最も重要なプロモーション活動の1つだ。そこで、オンライン参加した感想を聞いた。その結果、今期は参加自体を見送ったベンダーを含め、否定的な意見が40%、肯定的な意見が15%、肯定しつつ課題もあるという意見が45%だった。

 多数派の声としては、移動の制約がなく集まりやすい、参加人数が多かったなどのメリットをあげつつ、「ふらっと立ち寄るような方を引き込むのが難しい」「参加者の顔がみえず、反応がわからないので、どのレベルで話をするか設定しにくい」などの課題があったという。また、学会・展示会によっては来場者の情報が非公開の場合もあり、それには不満が多かった。

 2問目は、デジタルマーケティングへの取り組みについて。各社が開催するセミナーやユーザー会はすべてリモートになったが、既存ユーザーへのサポート、新規顧客獲得に十分な有効性を発揮しているかを聞いた。答えは、有効性があるが43%、厳しいが9%、中間的な回答が48%という結果だった。

 有効だとする声では、集客力が高まったことをあげる意見が大半。物理的な制約がなく開催頻度が上がったことも利点だとされている。ウェブサイトやメール配信を工夫して成果を出しているベンダーもある。中間的な回答の中では、既存ユーザーのサポートやコミュニケーションには問題がないが、新規顧客の獲得には結びつきにくいという感想が多く出ている。

 3問目は、直接の顧客訪問がしにくい状況が続く中での問題などを聞いた。4月に取ったアンケートでは、対面ができないために商談や発注の遅延、納品ができないなどの意見があったが、今回は問題なしが80%を占めた。顧客とのウェブでの会議が増加し、それをていねいに行うことで問題はないとする意見が大半だった。問題点として、「新規案件の提案から具体的な商談に進めるのはハードルが高い」「ソフトの使い方などのトレーニングは対面でないと難しい」との声があった。

 4問目は売り上げへの影響。前回のアンケートでは、2〜3割、3〜4割のダウン、最悪半減も覚悟しているなどの声も出ていた。今回、現在の状況を聞くと、売り上げへの影響なしが70%、ありが20%という結果になった。政府の緊急事態宣言下で経済活動が急激にダウンした数カ月間の影響を受けたことは事実だと思われるが、「昨年度に立てた予算計画で動いている顧客が多いため、いまのところ影響はない」「テレワーク関連のソリューションでむしろ売り上げは増加」「オンライン会議・リモート作業で効率良くプリセールスができ、影響はまったく感じない」と好調なベンダーも目立つ。一方で、影響があると答えた中では、1〜2割のダウンになっているところもあるようだ。

 ただ、「これ以上活動が制限されると、来年以降に影響が出るかもしれない」「顧客側での予算執行が遅れたり、予算自体が減ったりする可能性がある」「年間契約の事業が多いため、影響が出るのは来年度からと考えている」「年明け以降、来年度の動向には注意が必要」など、今後が楽観できないことは共通認識になっているといえそうだ。とくに、ベンダーによって多少の差はあるにしろ、新規顧客の開拓が十分にできていないことが大きな問題になってくる可能性がある。


ニュースファイルのトップに戻る