2020年冬CCS特集:特別編 バイオインフォマティクス
市場の変化に追随し存在感発揮、独自路線で生き残り図る
2020.10.01−バイオインフォマティクスを巡るソフトウエア産業は、この10年で大きく変貌した。1990年代から2000年代にかけて行われたヒトゲノムプロジェクトに前後して、さまざまな商用ソフトウエアやサービスが登場したが、ゲノム解析には無償のオープンソースソフト(OSS)を使うことが主流となり、公共性の強い知識として多くのデータベースがオープン化された。そうしたなか、バイオ関連のソフトベンダーは買収や合併で事業体制を変化させるケースも多く、清算・解散に至った例も少なくない。しかし、いくつかのベンダーは生き残り、独自路線であらためて存在感を強めている。
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近年の大きな流れの一つは、大資本によるソフトベンダーの買収やグループ化だ。ゲノミクス/プロテオミクス/メタボロミクスなどのオミクス解析から、創薬・医療(診断・治療)へとつなげるための統合的なデジタルラボを実現しようという壮大な目標が基盤にあり、そのために使用される計測・分析機器、データプラットフォーム、シミュレーション/解析ソフトなど、多くの企業や製品・サービスを束ねようという動きがある。
英ダナハーは、ベックマン・コールターなどのライフサイエンスおよび診断機器メーカーを傘下に収め、電子実験ノートを持つIDBSとも統合している。仏ダッソー・システムズも買収によってバイオビアやメディデータなどのライフサイエンス業界向けビジネスを強化している。分析機器メーカーの米パーキンエルマーや米サーモフィッシャーサイエンティフィック、次世代シーケンサー(NGS)メーカーの蘭キアゲンや米イルミナもソフトベンダーの買収をいくつも進めてきた。
こうした荒波を独立系として生き残ってきた企業もある。スイスのジーンデータは1997年設立。マイクロプレートアッセイのデータ管理ソフトウエア「スクリーナー」で知られたベンダーだが、最近では医薬品のモダリティに対応し、バイオ医薬品の研究から開発、製造に至る幅広いプロセスを支援するデータプラットフォームを提供。質量分析を用いたバイオ医薬品特性解析機能を豊富に備えた「エクスプレッショニスト」、NGSを利用したバイオセーフティー試験で注目されている「セレクター」など、新領域への取り組みを強めている。
また、統合型のワークフロー製品である「バイオロジクス」は、抗体薬などの研究開発において、すべてのバイオロジクス、研究プロセス関連データを統合管理し、関連情報のトレーサビリティーを実現、最終的に特許申請までをサポートする機能を持っている。さらに、「バイオプロセス」はバイオ医薬品製造の細胞株選抜におけるバイオプロセス関連データの統合管理・共有、クローン追跡、レポート・ヒットリスト作成、在庫管理などを行う。バイオ医薬品製造の開発評価のための機能も備えており、国内でも導入が期待されるという。
英マトリックスサイエンスも1998年設立。2004年に日本法人も設けている。質量分析データによるタンパク質同定を行うプロテオーム解析ソフトの代表的製品である「マスコットサーバー」が主力だ。臨床分野での活用が進み、バイオマーカー探索として変動しているタンパク質を発見するなどの用途で使われることが増えている。ただ、最近の傾向としては、発現しているタンパク質の種類を調べるだけではなく、それぞれを定量的に解析したいというニーズが高まり、DIA(データ独立取得)と呼ばれる新しい手法が登場。発現量の変動を定量的に解析することができ、これまで見逃していたスペクトルも検出できるという特徴がある。同社の日本法人では、DIAに対応した米プロテオームソフトウエアの「スキャフォールドDIA」も販売し、プロテオミクス研究の新トレンドに追随してきている。
一方、国内ベンダーの中からワールドフュージョンを取り上げよう。同社の設立は1996年だ。バイオインフォ関係のシステム開発や受託サービスでスタートした、ケミカルゲノミクスの草分け的なベンダーである。NGSと連携したメタゲノム解析で実績をあげてきたが、最近は皮膚や口腔、腸内に存在する微生物群に関連した解析に力を入れており、化粧品や機能性食品分野から注目を集めている。
同社が創業以来整備しているナレッジデータベース「LSKB」は、遺伝子・タンパク質・疾患・化合物・組織の相互関係を示すデータをまとめており、例えば歯周病に関連する微生物を減らす働きを持つ化合物を探索することが可能。善玉菌を増やし悪玉菌を減らす“菌活”にも役立つとして関心が高い。創薬への応用を視野に、今後は安全性情報などもLSKBに追加していきたいとしている。