2020年冬CCS特集:TSテクノロジー
独自技術生かし先導研究、設計から工業化まで一気通貫
2020.12.02−TSテクノロジーは、計算化学の専門ノウハウを持つ山口大学発ベンチャーであり、研究とビジネスの両面の活動で実績を築いてきている。今年度からは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の新産業創出新技術先導研究プログラム「デジタル駆動化学による機能性化学品製造プロセスの新基盤構築」を推進しており、独自技術の強みが十分に発揮されている。
この先導研究は、機能性化合物・材料の分子設計から合成経路の提案、仮想実験、実証試験、装置設計、工業生産までを一気通貫できる基盤技術の確立を目指したもの。東京大学、山口大学、大阪府立大学、産業技術総合研究所の研究グループと共同で実施中であり、とくにバーチャルとリアルが連結・融合しているのがユニークな点だ。
例えば、計算化学で化学反応速度を求めることができるが、実際の反応は濃度効果(物質濃度、pH等の影響)や拡散速度(分子が移動して出会う速度、粘度・レイノルド数等の影響)などのさまざまな効果が働き、必ずしも計算通りにはならない。これは、計算が理想系で行われているため。今回のプロジェクトでは、合成経路を評価する仮想環境(理想系)を実験的に再現できるマイクロフロードロップレットを利用し、反応データを実際に収集して、濃度効果を得ることなどで計算を補完。まとめ上げたデータを機械学習にかけ、反応速度論に基づくフロー設計を行う。そうして設計した装置(フローリアクター)で工業生産を実現するという構想である。
とくに、合成経路設計や合成経路評価は、量子化学計算による高速遷移状態解析が不可欠で、これは同社の得意技術。母体となった山口大学・堀研究室で開発してきた遷移状態データベース「TSDB」を使用することで、計算時間を大幅に削減することが可能だという。ただ、現状では手作業になる部分がかなりあるため、さらに自動化を進めたいとしている。
TSDBについては、商用化の手始めとして、量子化学計算機能をクラウドで提供することを予定している。社内リソースを補う目的で利用可能。
そのほか、受託研究・受託計算サービスも順調に推移している。とくに一定期間の専従体制で研究協力する「FTE契約」(包括的業務提携契約)が軌道に乗っており、山口と東京の2本社体制になったことで、顧客からも好評を得ているということだ。