富士通とペプチドリームが中分子創薬でデジタルアニーラ活用

環状ペプチドの安定構造探索、実験と同等の精度達成

 2020.10.14−富士通は13日、ペプチドリームと進めてきた共同研究の成果として、「デジタルアニーラ」とHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)を組み合わせ、中分子創薬を加速する技術の確立に成功、新薬の候補化合物となる環状ペプチドの安定構造探索を12時間以内(実験的手法では数カ月から年単位を要する)に高精度で実施することが可能になったと発表した。今後は、さらに探索時間の短縮に挑戦しながら、実際の創薬探索の現場で活用していくという。

 中分子医薬品は、低分子薬と抗体医薬の中間的な分子量を有し、コストに優れ副作用が出にくいという特徴から注目を集めている。ペプチドリームは、特殊ペプチドを用いた創薬の世界的なリーダーで、独自に合成した数兆種類のライブラリーを持っている。ただ、ペプチドで構成された候補化合物(中分子)は従来のコンピューターでは安定構造を探索することが難しく、ウェット実験を繰り返し行う必要があることから、時間がかかるのが問題だった。

 今回の共同研究は昨年9月から開始されたもの。富士通の「デジタルアニーラ」は、量子現象に着想を得て、組み合わせ最適化問題に特化したマシンで、この種の問題であれば通常のコンピューターをはるかに上回る性能を発揮することができる。共同研究のテーマを、環状ペプチドの最安定構造探索とし、「デジタルアニーラ」でこの問題を扱うための技術開発を進めた。

 具体的には、富士通研究所が、環状ペプチドの安定構造探索を組み合わせ最適化問題としてして解く技術を開発。まず、ペプチドを構成するアミノ酸をビーズとして表現する粗視化モデルを採用し、それを格子モデル上に移動させて,アミノ酸同士の相互作用ポテンシャルが最小化するビーズの位置の組み合わせ(主鎖の安定構造に当たる)を割り出す。このように「デジタルアニーラ」で最適化した粗視化モデルを全原子モデルに変換し、HPCシステムを使用して、側鎖を含めた全原子シミュレーションを実施。温度を変えながら構造を動的に解析して、最終的に室温で頻繁に現れる構造が最安定構造だと判断した。計算で求めた構造を実験結果と比較したところ、主鎖のずれが0.73オングストロームとなり、実験に置き換わる精度を実現できることが確認されたという。

 この技術を利用すれば、ウェット実験の工程を最小化し、結果として候補化合物の探索期間を短縮することが可能。今後、活性の向上、物性予測や動態予測につながる検討を両社で進めていきたいとしている。

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<関連リンク>:

富士通(デジタルアニーラ紹介ページ)
https://www.fujitsu.com/jp/digitalannealer/

ペプチドリーム(トップページ)
https://www.peptidream.com/


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