東工大・秋山教授らが環状ペプチドの細胞膜透過性予測手法

TSUBAME3.0で大規模MDシミュレーション、中分子創薬に設計指針

 2021.07.10−東京工業大学情報理工学院情報工学系の秋山泰教授らは9日、スーパーコンピューターの大規模活用による分子動力学(MD)シミュレーションにより、環状ペプチドの細胞膜透過性を予測する手法を開発したと発表した。計算結果から、環状ペプチドを構成する原子と細胞膜や水との間の静電相互作用が、細胞膜透過性と強く関係することが明らかになったという。これは、ペプチド創薬に関する分子設計指針となるもの。研究グループでは、シミュレーション予測精度の向上に引き続き取り組むとともに、深層機械学習を応用して高速な予測の実現も図ることにしている。

 環状ペプチド創薬は、これまで狙えなかった細胞内の標的をターゲットにできることで注目されているが、一般的には細胞膜透過性が低いという問題点があり、医薬品に適した細胞膜透過性を持つペプチドを設計する方法は試行錯誤によるしかなかった。秋山教授らは、2017年に中分子IT創薬研究推進体(MIDL)を設立し、細胞膜透過性予測手法の開発を進めてきていた。

 今回の研究は、文部科学省「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」において、川崎市と共同で推進している「IT創薬技術と化学合成技術の融合による革新的な中分子創薬フローの事業化」における成果の一つとなっている。

 具体的には、MD計算を利用した環状ペプチドの細胞膜透過性予測プロトコルを「TSUBAME3.0」で大規模に実行。創薬研究の過程で検討された156種類の異なる環状ペプチドに対して網羅的な計算を実施した。1種類の計算を行うだけでも、TSUBAME3.0のGPU28基を割り当てて70時間を要するという計算であり、これほどの大規模な実施例は世界でも前例がないという。

 結果としては、事前に得られていた実験値と計算による予測値との間で良好な相関性が確認された。また、MD計算のトラジェクトリーデータの解析から、環状ペプチドを構成する原子と細胞膜や水との間の静電相互作用の強さが、細胞膜透過性の値に強く関係していることが初めて明らかになった。これは、細胞膜透過メカニズムの解明や、ペプチド創薬の分子設計指針につながる可能性がある。

 詳しい研究成果は、米国化学会の「Journal of Chemical Information and Modeling」で、「Large-scale membrane permeability prediction of cyclic peptides crossing a lipid bilayer based on enhanced sampling molecular dynamics simulations」のタイトルで論文掲載された。

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<関連リンク>:

東京工業大学(秋山研究室のホームページ)
https://www.bi.cs.titech.ac.jp/

東京工業大学(MIDLのトップページ)
http://www.midl.titech.ac.jp/ja


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