量子アニーリングは古典コンピューターでシミュレートできず
東工大グループが証明、量子物質の動的解析には量子デバイスが必要
2021.08.20−東京工業大学 科学技術創成研究院 量子コンピューティング研究ユニットの坂東優樹研究員(研究当時)と西森秀稔特任教授の研究グループは19日、量子物質の動的性質の解析は、量子アニーリングによる古典コンピューター上のシミュレーターでは正確に求めることができないことを証明したと発表した。量子アニーリングを直接実現する量子デバイスの開発を促す成果であり、今後の技術開発の進展が期待される。
量子コンピューターを実現する方式はいくつかあるが、量子アニーリングは西森教授らが1998年に提案したもので、組み合わせ最適化問題を解くことに適している。2011年に商用機のD-Waveが開発され、実用化が進んできた。その応用は組み合わせ最適化問題だけでなく、量子シミュレーション(物質の性質を量子デバイス上で解析すること)にも広がってきている。ただ、D-Wave形式の量子アニーリングは、古典コンピューター上でも効率良くシミュレートできるため、量子デバイスを開発しなくても事足りるという意見も出てきたという。
今回、坂東研究員らは1次元横磁場イジング模型として知られる量子磁性体を対象に、その動的性質が古典コンピューター上のシミュレーターでどれだけ正確に再現できるかを調べた。TSUBAME3.0を使用し、得られたデータから欠陥数(物質の構成要素が隣同士完全に揃った状態にない場所の数)の分布を詳細に解析。その結果、一部のデータは量子力学理論から導かれる値と一致するが、多くのデータは一致しないことを確認した。量子デバイスであるD-Waveマシンによる出力結果とも一致しないことがわかったという。どのような場合に一致し、どのような場合に一致しないかをあらかじめ知ることは不可能であり、シミュレーターでは量子シミュレーションを正確に実行できないことが明らかになったとしている。
量子力学の効果が顕著にあらわれる物質の性質を解明し、材料開発につなげるためには、高精度・高機能な量子アニーリング装置の研究開発を進めることが重要だ、ということが結論といえる。なお、物質の平衡状態の解析は、シミュレーターでも妥当な値になるようだ。今回の研究の詳細は、米国物理学会の「Physical Review A」誌に、「Simulated quantum annealing as a simulator of non-equilibrium quantum dunamics」のタイトルで掲載された。
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<関連リンク>:
東京工業大学(量子コンピューティング研究ユニットのホームページ)
http://www.qa.iir.titech.ac.jp/index-j.html