東大・溝口教授らが機械学習で結合物性を高精度予測
状態密度を記述子に採用、化学反応や触媒の予測に応用へ
2021.07.20−東京大学生産技術研究所の溝口照康教授、同大学院工学系研究科・修士課程2年の鈴木叡輝大学院生(研究当時)、生産技術研究所の柴田基洋助教らの研究グループは19日、ニューラルネットワークを利用して結合後の性質を高精度に予測する手法を開発したと発表した。結合を形成する前の原子、分子、固体の個々の状態をあらわす“状態密度”を入力データにすることで、結合の強さや結合距離などの結合物性を予測できることを示した。化学結合の形成は、吸着や化学反応などのきっかけ(素過程)として重要であるため、予測対象を広げることで物質開発の加速に道を付ける成果になるとして注目される。
原子が他の原子や分子、固体表面に近づくと、それぞれが持っている軌道が相互作用し、ときに互いの電子を共有・移動することで「化学結合」が形成される。互いの原子の大きさや、共有・移動する電子の量によって、化学結合の強度や距離が決まる。一方で、化学結合の強度や距離などの結合物性は、結合をつくる原子−原子、原子−分子、原子−固体などの組み合わせによって異なってくる。したがって、結合物性を知るためには、目的とする結合の組み合わせを反映させたモデルをいくつも作成し、量子化学計算を行う必要があった。
今回の研究は、そうしたシミュレーションを行わずに、結合物性を予測する人工知能(AI)開発を目指したもの。ニューラルネットワークを利用し、入力層に結合「前」の情報、出力層に結合「後」の結合物性を与えて機械学習を実施した。具体的には、原子−原子、原子−エチレン分子、原子−グラフェンという比較的単純な化学結合を対象とし、結合する「前」の状態密度を記述子として使用することで、結合強度を0.22エレクトロンボルト、結合距離を0.011ナノメートルの誤差で予測できた。化学結合を予測する記述子として、状態密度が有効だと示したこと自体も今回の際だった成果になるようだ。また、一般的な機械学習では、予測するデータ量の3〜4倍のデータ量が学習に必要だが、今回は予測データ量の5分の1程度という少ない学習でも、十分な予測精度が出ることが確認できたという。
詳細については、「Applied Physics Express」誌のオンライン版に、「Accurate Prediction of Bonding Properties by A Machine Learning-based Model using Isolated States Before Bonding」のタイトルで論文が掲載されている。
今後、研究グループでは、分子−分子や分子−固体など、より複雑な化学結合が予測できるように研究対象を広げていくことにしている。
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<関連リンク>:
東京大学生産技術研究所(溝口研究室のホームページ)
http://www.edge.iis.u-tokyo.ac.jp/