2021年冬CCS特集:シュレーディンガー
株式上場機に陣容を拡大、物理とデータの方法論駆使
2021.12.01−シュレーディンガーは、モデリング&シミュレーション技術をベースに、生命科学分野で30年、材料科学分野でも10年の実績があり、トップベンダーとして着々と事業を拡大している。昨年、NASDAQに上場して以降、組織体制を強化してきており、現在の社員数は世界で約680人だが、今年だけで25%以上の増員を図っている。日本法人も、積極的な人材採用を進めたいという。
同社は、11月から新しいロゴマークを採用したが、これには単なるソフトウエアの開発会社から研究パートナーとしてのコラボレーターになるという意思が込められている。現在、同社の売り上げの8割はソフトウエアのライセンス収入だが、社内には110人の創薬研究者がおり、共同研究サービスや独自での創薬事業に携わっている。独自で6本の創薬パイプラインを進行させており、非臨床段階に進むものや今度臨床試験入りするものも出てきている。これらは、同社のモデリング&シミュレーション技術の成功事例ともなっているわけだ。
一方、材料科学分野では、もともとの物理シミュレーションベースの方法論と、人工知能(AI)/機械学習やマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を駆使したナレッジベースという2つの方法論を活用し、有機EL、ポリマー/複合材料、半導体、触媒/特殊化学品、電池、無機/金属材料などの幅広い分野で実績を積み重ねてきている。物理科学とデータ科学を組み合わせることで効率的な材料探索が可能になり、実際の材料を作製したり評価したりする実験の回数を減らすことができる。
例えば、ポリマーでは主鎖のもつれ合いや架橋構造、半結晶構造などのモデリングができるようになり、誘電特性や屈折率、ガラス転移温度、機械特性などのプロパティ計算が可能。有機ELでは、電荷移動度、結合解離エネルギー、発光スペクトルと色空間、薄膜モルフォロジー、堆積による膜形成、溶媒の取り込み、機械的反応などが予測できるようになっている。半導体関係では、CVD(化学気相成長)やALD(原子層堆積)などのプロセス材料の解析、最適化、探索を行うことができる。
機械学習への対応では、ポリマー用記述子を開発したことで予測モデルの精度が向上。誘電特性では、転移学習を用いてデータが少ない状態でもギガヘルツ帯の予測が可能になったなどの報告があるという。また、逆問題への取り組みではREINVENT法を適用し、複数のプロパティを同時に最適化するMPOスコアを使用することによって、現実にありそうな構造を持ちながら、良い物性を示す化合物の探索を実施している。
物理型およびナレッジ型のツール群は、ウェブコラボレーション環境である「LiveDesign」上で統合的に利用することが可能。実験データと計算データをまとめて機械学習することもでき、データ駆動型の研究スタイルを具現化できることで関心が集まっている。