2022年夏CCS特集:モルシス

機械学習利用し力場作成、メタバースでサポート充実へ

 2022.06.28−モルシスは、モデリング&シミュレーション(M&S)を主力に、研究所のデータ管理や情報共有などのインフォマティクスソリューション、電子実験ノートブックを含めて、生命科学と材料科学の両分野における研究開発支援システムを幅広く提供している。

 同社は加ケミカルコンピューティンググループ(CCG)の子会社として、創薬研究に役立つ統合計算化学システム「MOE」を販売。日本以外のアジア市場も対象にしており、とくに中国での実績を急速に伸ばしている。今期も中国は5割増(中国以外のアジア市場も2ケタ増)の勢いであり、今年初めてアジア向けに共同イベント「BIOLOGICS BY DESIGN ASIA 2022」を開催することにした。これは、CCGとモルシス、中国の代理店であるクラウドサイエンティフィックとの3社共催によるもの。7月28日にオンラインで開催し、日本人や中国人のスピーカーも講演する。M&Sによって生物学的プロセスや治療法の理解を深め、最適化するための先進的な情報に焦点が当てられるという。

 MOEについては、創薬モダリティでの注目度が高く、PROTAC(タンパク質分解誘導キメラ分子)開発やペプチド設計、抗体設計などの分野での引き合いが増えている。さらに、機械学習を利用した分子構造の生成などもユーザーの関心が高い。MOEには標準機能のほかに、SVLライブラリーとしてオプションプログラムが多数利用可能。最新のユーザーニーズに対応した機能がタイムリーに提供されている。

 また、コロナ禍でサポート体制の充実を図っており、実地に行っていたMOEトレーニングコースをすべて動画にし、オンデマンドでの配信をこの6月から本格的に開始した。バーチャルオフィス空間を利用したいわゆるビジネスメタバースで、利用者はアバターとして入室し、全15コースのうち見たいところに移動して、随時何回でも動画で学習することが可能。スタッフを呼び出す機能もあり、わからないところがあればライブの会話で質問することもできる。今後、海外の開発者を招いて講演会を行うほか、教室以外の場所ではアバター同士で2人だけ、あるいは少人数のグループになって会話することもできるため、懇親会的なものの開催など、いろいろな活用を図りたいとしている。

 そのほか、生命科学関係では、独バイオソルヴITの「InfiniSee」への引き合いも本格化してきた。数百億個など閲覧するのが不可能なほど巨大なサイズのケミカルスペースから目的分子を探索することが可能。クエリー構造に類似した合成可能あるいは購入可能な化合物を短時間で発見することができる。DNAエンコーデッドライブラリー(DEL)など、創薬研究に最適化された大規模ライブラリー技術が普及してきていることも背景になっているようだ。

 一方、材料科学分野では、米マテリアルズデザインの材料設計支援統合システム「MedeA」の実績が大きい。とくにいま注目されているのが、機械学習で分子力場計算のポテンシャルパラメーターを作成する機能である。分子動力学法などの力場計算は、計算対象に合わせてあらかじめ調節されたパラメーターを使用する必要があるが、機械学習ポテンシャルは対象物質の物理化学的性質(イオン結晶なのか金属なのかなど)にかかわらず汎用的に適用できることが特徴となっている。

 機械学習には、密度汎関数法(DFT)などの第一原理計算の結果を用いる。フリーのツールを使うと専門知識を必要とするたいへんな作業になるが、MedeAのMLP/MLPGは、SNAPやNNPといった機械学習法をサポートしており、ユーザーが自分自身で機械学習ポテンシャルを作成できるツールとして昨年12月に製品化された。トレーニングセットの準備から、パラメーターフィッティングの実施、作成したパラメーターを検証するまでを一貫して行うことが可能。

 十分な学習用データを揃える必要があるが、第一原理計算に近い精度で分子動力学シミュレーションを行うことができるため、第一原理計算では到達不可能な大規模・長時間スケールの解析が可能。また、性質の異なる物質を同時に扱えるため、金属と酸化物の界面構造などにも対応することができる。


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