2022年夏CCS特集:TSテクノロジー
合成プロセス設計で採択、研究受託事業が2倍超の伸び
2022.06.28−TSテクノロジーは、山口大学発の化学技術や情報技術を基盤に、新薬開発や材料研究のサポートを提供。受託計算や受託研究のかたちで直接的に支援するほか、研究ツールとしてのソフトパッケージの開発、高性能な計算機環境の構築など、幅広い取り組みを行っている。また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業に採択されるなど、最先端の研究活動でも評価が高い。
同社は、受託サービスで幅広い選択肢を用意しており、決まったメニューの計算をネット経由で受け付ける「クイックオーダー」、テーマに即してきめ細かく対応する「フルオーダー」、一定期間の専従体制で包括的に研究協力する「FTE契約」でさまざまなニーズに応えている。昨年度はとくに好調で、2.5倍の伸びがあったという。年々、計算需要は拡大しているという実感があり、とくに近年は材料開発に関するテーマが多い。
また、同社ではこれまでも助成金などを活用して独自の研究を進めてきたが、今年度から新たなプロジェクトがスタートした。これは、2019年度から2025年度の予定で推進されているNEDOの「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」(プロジェクトリーダーは中部大学・山本尚教授)。わが国のマテリアル革新力強化戦略に基づき、プロセス・インフォマティクス(PI)や計算科学等を活用した機能性化学品の革新的製造プロセス(フロー合成技術等)を確立することが目的で、先行して研究されてきた「高効率反応技術の開発」と「連続分離精製技術の開発」に加え、2022年度から新しい研究開発項目として「合成プロセス設計技術の開発」が追加され、この分野の実施機関として同社らの提案が採択された。
具体的には、合成経路探索技術、触媒最適化設計技術を開発し、技術検証を行うとともに、フロー合成などの装置設計への適用法も探っていく。量子化学計算で得られるエネルギーダイアグラムを解析することにより、確からしい合成経路や反応条件をみつけることはできるが、実際の反応器を使って計算結果の正しさを検証できるため、計算化学の立場からも貴重な知見が得られる期待が大きい。また、バッチ法よりも省エネで効率的な連続フロー法の装置設計に役立つことがわかれば、産業的な観点でも大きな成果となるだろう。
一方、受託研究事業では、化学・材料メーカーからの依頼が増えているが、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)に関するものが多いという。とくに、機械学習のためのデータキュレーションが問題であることに多くのユーザーが気づき始めているため、欠損があるなど不完全な実験データを社内で集めるよりも、計算化学でデータをつくり出したいという要望が増えている。そのため、大量の入力ファイルを用意するのを手伝ってほしいという話も来ているようだ。