日立がMIでポリ乳酸用添加剤の有望候補を発見

機械強度と生分解性を向上、計算・実験で効果を実証

 2022.12.14−日立製作所と日立ハイテク、日立ハイテクソリューションズの共同研究グループは、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を利用して、ポリ乳酸の機械強度と生分解性を向上させる添加剤を発見し、実験的にその効果を確かめた。11月に行われた高分子学会のポリマー材料フォーラムで研究発表され、広報委員会パブリシティ賞を受賞している。MIの有効性を示すとともに、バイオプラスチックの用途拡大やプラスチック社会の持続可能性向上にも寄与するものと注目される。

 今回の研究テーマは「公開データから探索したバイオ由来ポリ乳酸樹脂用添加剤の効果実証」。日立ハイテクソリューションズが開発したMI製品「Chemicals Informatics」(CI)を利用した。これは独自の3種類の人工知能(AI)技術を駆使したシステムで、公開されている特許・論文などの1億件以上のデータを、自然言語処理(NLP)、新規化合物生成、掛け合わせ探索手法(特許取得済)−の3つのAIで解析し、目的の特性を持つ既知・未知の化合物を探索することができる。特許情報を持っているため、特許未取得の化合物の組み合わせなども調べることができ、最新バージョンでは70種類以上の特性を予測することが可能。基本物性のほか、強度や電磁、光、熱、半導体、量子、生化学、毒性などの性質に対応している。

 さて、今回の共同研究では、バイオプラスチックであるポリ乳酸の機械強度と生分解性を向上させる添加剤を探索し、実験的にその性質を確かめた。具体的には、母材であるポリ乳酸樹脂と、添加剤の候補となる14種類の有機物、11種類の金属酸化物、6種類の金属水酸化物をCIに入力した。新規に生成した化合物も含め、合計31万通りの組み合わせを数分ほどで探索し、機械強度(降伏強度)と吸水率(生分解を加速する加水分解の起こりやすさを示す)が最大になる組み合わせを調べた結果、有望物資として3,3'−ジチオジプロピオン酸とアジピン酸を得た。とくに前者はポリ乳酸の添加剤としての用途は知られていなかった。

 とくに、ジチオジプロピオン酸について添加剤効果のメカニズムを分子動力学シミュレーションで解析したところ、添加剤が母材であるポリ乳酸の分子配列を整えて静電気引力を強化することがわかったという。具体的には、母材と添加剤の分子構造のC=O結合距離が一致しているため、C=O同士が0.492eVの強さで吸着して界面強度が高められることを示した。またC=O間の吸着により、水の拡散係数が9.8倍に増加して吸水性が増すことがわかった。この計算結果を踏まえて、ジチオジプロピオン酸が有望であると判断。実際に試験片を製作し、引張試験における降伏強度と、水溶液浸漬による加速加水分解試験を行い、比較物質よりもジチオジプロピオン酸が優れた特性を示すことを実証した。ジチオジプロピオン酸を添加すると、機械強度は無添加の状態よりも大きく向上し、加水分解試験でも表面層が剥離してもろくなることが確認された。これをもとにポリ乳酸とジチオジプロピオン酸の組み合わせで特許も出願したという。

******

<関連リンク>:

日立ハイテクソリューションズ(Chemicals Informatics 製品情報ページ)
https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/products/ict-solution/randd/ci/


ニュースファイルのトップに戻る