CCS特集2023年夏:アドバンスソフト
高速計算化学でMI支援、Jupyter環境と連携も
2023.06.28−アドバンスソフトは、産業界が必要とするコンピューターシミュレーション技術を開発し、提供する企業で、計算化学、流体解析、構造解析などの科学技術計算に関連した幅広いサービスを提供している。なかでも、ここ数年は化学・材料分野のモデリング&シミュレーションが成長しており、開発ペースを上げて高度化するユーザーニーズに応えている。
同社がこの分野で開発している製品は、第一原理計算ソフトウエア「Advance/PHASE」、ナノ材料解析統合GUI「Advance/NanoLabo」とニューラルネットワーク分子動力学システム「Advance/NeuralMD」の3つ。Advance/PHASEは、国プロジェクトに参画して開発に関わったPHASEを独自に拡張し製品化したもので、最新版は材料データベース(Materials Project)と連携したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)機能を搭載している。Advance/NanoLaboは、Materials ProjectやPubChemなどから材料データを検索し、それに対してAdvance/PHASEやQuantumESPRESSO、LAMMPSなどの計算ソルバーで計算・解析する機能を持っている。わかりやすいユーザーインターフェイス(GUI)を備えていることが特徴。また、Advance/NeuralMDはQuantumESPRESSOの計算結果を利用してニューラルネットワーク力場(NN力場)を作成するためのソフトで、Advance/NanoLaboのGUIから操作し、高速なMD計算を実施することができる。
とくに、Advance/NanoLaboは、昨年にオープンカタリストプロジェクトで開発された汎用グラフニューラルネットワーク力場(汎用GNN力場)が利用できるようになったことに続き、今年3月のバージョン2.7ではカリフォルニア大学サンディエゴ校が開発した無機固体向けのGNN力場「M3GNet」にも対応。リチウムイオン電池の伝導体のイオン伝導率、正極材料の構造相転移、また金属と半導体などの界面エネルギー計算に利用できることを検証している。5月には早くもバージョン2.8がリリースされ、新製品の「Jupyter Interface for NanoLabo」に対応する機能を追加した。
これは、機械学習やディープラーニングなど、データサイエンス分野で広く使われている「Jupyter Lab」(Pythonコードのエディター並びに実行環境)をAdvance/NanoLaboと連携させるソフト。Advance/NanoLaboでモデリングした構造をJupyter Labに転送し、任意の解析を実行させることが可能。マテリアルズ・インフォマティクス(MI)研究で便利な機能として注目されている。
一方、Advance/NeuralMDも今年3月にバージョン1.8に機能強化した。NN力場を作成して運用するための専用ソフトだが、計算コストが非常に高かったため、GPU対応やMPI並列処理対応で改善。自己学習ハイブリッドモンテカルロ法の搭載により、NN力場作成プロセスは自動化されており、計算したい系を代表する分子構造をQuantumESPRESSOの入力ファイルとして与えるだけで、計算と学習を自動的に行ってくれる。最新版では、有機分子系の精度を改善するため、ReaxFFを用いたΔ-NNP法に対応したほか、原子スケール解析を実施するためのPythonモジュールであるASE(Atomic Simulation Environment)のトラジェクトリーファイルを教師データに変換する機能が追加された。同社によると、NN力場はDFT計算の高速化と見なすことができ、DFTによる大量のデータ生成が必要なMIにおいては、MIを推進する技術として有用性が高いという。
その意味で、Advance/NanoLabo、Advance/NeuralMD、Jupyter Interface for NanoLaboの3つを組み合わせたMI研究支援ソリューションへの反響が期待される。