CCS特集2023年夏:計算科学振興財団
民間のスパコン活用支援、計算化学の体系的講習を企画
2023.06.28−計算科学振興財団(FOCUS)は、スーパーコンピューターの産業利用を促進するため、産学官の連携協力により設立された公益財団法人で、今年が15周年。日本のフラッグシップスパコン「富岳」を擁する理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS)に隣接した立地を生かして、産業利用向けの「FOCUSスパコン」の提供、スパコン利用講習会による企業向けの技術高度化支援をはじめ、大きく活動を広げてきている。とりわけ、利用例の多い計算化学のシリーズ講習を新たに企画しているほか、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)に関しても地元の兵庫県MI研究会と連携しつつ、データ科学の人材育成事業を含めた取り組みを強化している。
日本では文部科学省主導のもと、「富岳」を中核として全国の大学・研究機関が保有するスパコンを結んで共有する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ」(HPCI)が形成されているが、FOCUSも分担機関の1つとして産業利用の拡大という目的を担っている。
「FOCUSスパコン」は、企業ユーザーがスパコンを初めて使うスタートアップ、あるいは「富岳」/HPCIの利用に向けてのステップアップを主目的とするもので、現在はさまざまなアーキテクチャーの12システムが稼働しており、トータル458ノード、総演算性能は約200テラFLOPSに達する。年間利用法人数は、2011年の運用開始以来11年連続で前年度実績を更新しており、2022年度末での正味累計利用数が415社、累計課題数は673件となっている。
財団は、今年3月に中期事業計画(今年度から5カ年)を策定したが、その中で(1)スタートアップからアドバンストユースまでの一貫した支援、(2)AIの活用とシミュレーションの推進、(3)産・官・学・公との協創による展開−という活動方針を掲げている。とくにCCSに関連したところをみていくと、利用頻度の高い主要アプリケーションの講習は、Gaussian、QuantumESPRESSO、LAMMPS、GAMESSなど計算化学プログラムが多くを占める。また、Pythonの活用やAI/機械学習/ビッグデータ解析はシミュレーション技術のステップアップ講習に位置づけて実施中。今後は、計算化学についてソフトの使い方だけでなく、理論から体系的に修得できるよう、新しいシリーズ講習を企画しており、今年度新規に「ハンズオンで学ぶ計算物理化学の基礎」を今月に全4回で開催中。また、新規に分子化学計算ソフトウエアのセミナーも検討している。
FOCUSスパコンについては、今年度と2026年度に大規模更新を計画しており、最新機種への入れ替えやGPU搭載機の増設などを通し、演算性能も大幅に高めたい考え。今年度は、秋からの需要期に合わせて夏には実施したいということだ。これまでの利用者は大企業が6割で、東京・関東と関西で8割を占める。地方企業や中小企業がスパコンを身近に感じるように、さらに活動内容を充実させていく。また、「富岳」のクラウド的利用に向けた共同研究に加わった関係で、実施中の「計算化学アプリケーション利用者向け計算サービスの開発と実証」プロジェクトにも参画している。財団の活動範囲もさらに広がりそうだ。