CCS特集2023年夏:モルシス
低分子創薬向け機能拡充、材料系力場開発の新ツールも
2023.06.28−モルシスは、研究開発向けソフトウエアの専業ベンダー。計算化学と情報化学の両分野をカバーしており、今年もライフサイエンス向けの主力製品である統合計算化学システム「MOE」、マテリアルサイエンス向けの材料設計支援統合システム「MedeA」が順調に成長している。昨年からは国内の若手研究者(計算化学)を対象にした研究助成制度も創設するなど、ユニークな取り組みも行っている。
同社には、MOEの開発元である加ケミカルコンピューティンググループ(CCG)が66.67%を出資しており、子会社としてMOEのアジア市場における販売・サポートも担っている。とくにここ数年は中国での実績が急速に伸びており、中国の大学と10年間の長期契約を結ぶなどの成果も出ているようだ。
MOEは創薬支援機能を豊富に備えた統合ソフトとして日本でも大きな実績があり、近年では抗体や核酸、ペプチドなど創薬モダリティに対応した機能を充実させている。同時に、低分子創薬への根強い関心に合わせた機能強化も図っており、なかでも「コンビナトリアルライブラリーエニュメレーション」(CLE)ツールの評価が高い。化学反応ルールに基づいてビルディングブロックを組み合わせて列挙された化合物のライブラリーを対話的に探索・調整することが可能。また、構造活性相関(SAR)やマッチドモレキュラーペア(MMP)解析などが簡単に行える「MOEsaic」機能も人気がある。
最近は、タンパク質などの創薬ターゲットの構造情報が多く得られるようになってきているため、MOEと連携できる姉妹製品であるタンパク質立体構造情報データベース「PSILO」の注目度が高まっている。さらに、10の20乗分子を超える購入可能なバーチャル化合物の中から、目的化合物を高速に検索する「InfiniSee」(独バイオソルブIT)は、医薬だけではなく農薬研究での事例も出てきているという。
そのほかのライフサイエンス系製品では、西ケモターゲッツの「ClarityPV」に力を入れている。トランスレーショナルセーフティとファーマコビジランスのためのプラットフォームで、医薬品の安全性薬理学、非臨床毒性試験、臨床安全性試験および市販後調査のすべてのレポートから得られた情報を構造化して収録している。医薬品のすべての開発段階における安全性シグナルをシームレスに関連付けて解析できる。
一方、マテリアルサイエンス系では、米マテリアルズデザインの統合システム「MedeA」が多機能で実績豊富。話題の機械学習ポテンシャルに対応するなど注目を集めている。ただ、今年は米イーオンテクノロジーの「ダイレクトフォースフィールド」(DFF)の提案活動を強化する考え。というのは、機械学習ポテンシャルの課題も明らかになってきているため。力場関数が複雑でパラメーター数も多いため、計算速度が極端に遅くなるのだという。量子化学計算よりは段違いに速いが、同じ力場計算で比較すると100倍遅いケースもあるとのことだ。
DFF自体は、計算したい対象のフラグメントを照会し、力場データベースからパラメーターを取得して割り付ける機能を持っている。現在開発中のクオンタムDFF(QDFF)機能は、多数のフラグメントに対する量子化学計算結果のデータベースを用意しておき、照会したフラグメントの量子化学計算データを取得して、あらためてパラメーターフィッティングを行って力場パラメーターを割り付ける。QDFFで構築されるパラメーターは古典力場であるため、力場関数はシンプルでパラメーター数も少ない。通常の力場計算と同じ速度で計算ができる。力場計算の応用範囲を広げる新技術として注目される。年内にはリリース予定だという。