CCS特集2023年冬:EAGLYS
秘密計算でMI解析実施、暗号化されたデータを共有
2023.12.05−EAGLYSは、データを暗号化したまま計算する“秘密計算”をコア技術とする人工知能(AI)スタートアップで、具体的な用途としてマテリアルズ・インフォマティクス(MI)に注目。複数の企業間でデータを秘匿しながらAIプロセスのすべてを暗号化したまま行える「EAGLYS ALCHEMISTA」(イーグリス・アルケミスタ)を開発しており、大塚化学との間でPoC(概念実証)プロジェクトを実施している。来年春に正式製品版をリリースし、PoCのフィードバックを順次反映させて、分析範囲の拡大などの機能強化を図っていく。
秘密計算にはいくつかの方法があるが、同社は準同型暗号(ホモモーフィック・エンクリプション)を専門とし、AI・データ科学や暗号化の学位を持つ国際色豊かなスタッフを揃えている。MIへの応用展開を進めるため、化学系の人材も増やす方針である。
材料開発では、材料メーカーは顧客に対してサンプルを供給して評価結果をすり合わせていくが、企業秘密で互いに細かいデータを提示し合うことができないため、定性的なやり取りになり、時間がかかる原因になっていた。「EAGLYS ALCHEMISTA」を採用すると、暗号化された状態で両者のデータを結合、顧客データを含めた状態でMIを実施、両者のデータを活用したMI解析による実験の効率化を実現できる。
また、相手側のデータを隠しながら、どちらの側のデータが目標に対してどの程度寄与しているのかなど、仮説を立てたり議論を深めたりするためのユーザーインターフェースを備えており、従来の企業間でのすり合わせを強化することも可能としている。PoCでは、主原料の物性、主原料の種類と全原料の配合比などのデータを暗号化し、秘密計算で最適な物性や最適な配合条件を探索できることが確認できているという。
正式版のリリースに向けて、操作性をさらに改善し、特徴量のチューニング支援機能を強化するほか、対応可能な機械学習アルゴリズムとしてニーズの高いブースティングやベイズ推定などに対応させる。また、1対1ではなく1対多の秘密計算に対応したプラットフォームの開発も急ぎたいとしている。
現在は、計算機はクラウドサービスを利用しているが、データを暗号化しているために計算が重くなるのが課題であり、キオクシアと専用チップ開発の共同プロジェクトも実施中。準同型暗号自体の研究も推進している。