CCS特集2023年冬:三井情報

量子コンでコドン最適化、二次構造予測にも対応可能

 2023.12.05−三井情報は、バイオインフォマティクスで最先端の技術開発を進めており、広く外部機関との共同研究にも積極的に取り組んで事業化へのタネを育てている。その最新成果の1つが量子コンピューティングを用いたコドン最適化で、9月に開催された応用物理学会秋季学術講演会で発表が行われた。mRNA医薬の合成や、バイオものづくりにおけるスマートセルの作製など将来的な応用が期待されている。

 今回の共同研究は東芝デジタルソリューションズと進めているもの。応用物理学会では「シミュレーテッド分岐マシンを用いたRNA二次構造予測」のタイトルで発表され、聴衆の関心も高かったという。現在、論文も準備中だ。狙ってるのはコドン最適化。コドンは、タンパク質を構成するアミノ酸が翻訳される際に、それぞれのアミノ酸に対応する塩基配列のことで、3塩基の組み合わせであるトリプレットが1つのアミノ酸を指定する。ただ、同じアミノ酸に対応するトリプレットが複数あり、どの配列を選ぶかが安定性にも関係するため、タンパク質を構成するアミノ酸全体で考えると考慮すべきコドンの組み合わせは膨大な数になってしまう。その意味でも、組み合わせ最適化問題を得意とする量子コンピューターにうってつけのアプリケーションだといえる。

 すでに先行研究はあり、2021年10月にグラクソスミスクラインが(GSK)がD-WAVEの量子コンピューター(量子アニーリングマシン)を使って10個のタンパク質のコドン最適化を行った例が論文発表されている。これに対し、三井情報と東芝デジタルソリューションズの研究グループは、東芝グループが開発している量子インスパイアード組み合わせ最適化ソルバー「シミュレーテッド分岐マシン」(SBM)を利用。量子コンピューターの研究過程で発明された“シミュレーテッド分岐アルゴリズム”を実装しており、既存のコンピューターを使用するため、複雑で大規模な問題への対応が容易となっている。

 共同研究では、495残基(1485塩基)のタンパク質を対象とし、各コドンをキュービットに割り当て、コドン利用頻度やGC含量、繰り返し配列の抑制などのルールに従って最適化した。SBMは30秒で約1万回の試行が可能で、従来の手法(遺伝アルゴリズム)で8時間かかった処理を数秒に短縮した。しかも、オリゴヌクレオチドの配列設計では、134塩基長(GSKとD-WAVEの例では30塩基長が最大)の配列に対応。シュードノットなどの複雑な二次構造までを予測したうえで最適化できることを初めて報告した。

 量子コンピューター対応のコドン最適化アルゴリズムはほぼかたちになってきたため、今後はウェット実験を行い、最適化によって実際に発現量が上がることを検証していく。

 コドン最適化は、mRNA医薬の開発に役立つとみなされるほか、経済産業省が主導している「バイオものづくり革命推進事業」において、バイオを利用した生産技術の一翼を担うスマートセルの関係でも注目されている。同社では、ゆくゆくはサービスとして事業化することを目指している。

 なお、同社はゲノムインフォマティクスと質量分析インフォマスクス分野のパッケージソフト開発に力を入れており、生体内脂質の自動同定システム「LipidSearch」、核酸解析プラットフォーム「AQXeNA」、メタボロームターゲット分析解析プラットフォーム「MetaboAlign」などの製品も販売している。


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