CCS特集2023年冬:TSテクノロジー
NEDOプロで研究成果、遷移構造探索で新手法開発
2023.12.05−TSテクノロジーは、山口大学発の計算化学スタートアップとして15年の歴史を重ね、受託研究サービスを中心に、独自のパッケージソフト開発、サービス提供、計算化学用コンピューターの構築まで、幅広い事業展開を行っている。拠点は、山口と東京の2本社制で、関東・首都圏の実績もすでに豊富だ。
現在、同社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」(プロジェクトリーダーは中部大学の山本尚教授)に参画している。目的化学品の最適製造経路設計および、化学品製造の環境負荷低減(省エネ・省廃棄物)と高速・高効率なオンデマンド生産を可能とする革新的製造プロセス(フロー合成技術等)の開発を狙ったもので、2019年度からスタート。プロジェクト全体は「高効率反応技術の開発」「連続分離精製技術の開発」「合成プロセス設計技術の開発」の3つの研究開発項目から成り立っており、TSテクノロジーは2022年度から追加された第3の研究項目の実施機関を担当している。量子化学計算結果を適用して逆反応を含めた各反応の速度差を精密に算出し、反応時間や最終生成比を正しく求めるとともに、反応物の半減期、反応平衡化までの反応時間、生成物の最終生成比や選択率、反応時間や生成比の温度依存性などを明らかにすることが目的だ。
プロジェクトは今年、中間評価で良好な評点(3点満点の2.8点)を得て、2025年度の完了に向けて後半に入ってきている。同社が担当する研究内容も前進しており、秋の学会でいくつかの成果が発表された。まず、11月24日からの日本コンピュータ化学会では、「理論計算およびPLS回帰を用いた溶媒効果の取り込みに関する検討」でポスター発表を行った。計算理論と実験結果とのギャップを埋める補正法の開発に関連したもので、適切な反応速度定数を予測するために、理論計算に溶媒効果を取り入れる方法を探った。実測値の反応速度定数を目的変数、量子化学計算結果から得られたパラメーターを説明変数として、部分的最小自乗法(PLS)回帰でデータ解析したところ、溶媒がアルコール系の場合に反応速度が加速する現象と相関のある変数がみつかったという。
また、11月11日の日本化学会中国四国支部大会では、「自己組織化マップを用いた化学反応遷移状態モチーフの分類」のタイトルで口頭講演した。これは、同社の母体である山口大学・堀研究室(堀憲次教授)で開発している化学反応の遷移状態(TS)データベース「TSDB」を利用した研究。化学反応は多様だが、素反応の反応部位におけるTS構造の幾何学的なパターン(TSモチーフ)の種類は少ないと考えられるため、有機化学的に異なる反応でも、TSの構造的な特徴が類似していれば、それをベースに効率的に新たなTS構造を探索することが可能ではないかという発想が出発となっている。研究では、TSDBから抽出したデータをもとにその幾何学的特徴量を機械学習の自己組織化マップ(ニューラルネット)で分類し、実際に別種の反応が同じグループに分類されることを示した。とくに、酸化的付加における金属原子の違いやペリ環状反応、プロトン移動をともなう六員環のTSについては、有機化学者の感覚と一致する結果が得られた。この研究をさらに進めることにより、最終的には有機反応全体を俯瞰できる地図ができあがると期待しているという。結果的に、反応機構を解析する際に重要なTS探索が大幅に効率化され、設計した物質を速やかに合成する自動化化学への道につながるとのことである。
一方、来年に向けての事業展開としては、科学技術計算用並列高速計算機「NGXシリーズ」の販売を強化する。高性能なパーツを独自に組み上げたマシンで、年内には専用のサイトを設けて受注を開始する予定だ。