CCS特集2024年夏:EAGLYS

秘密計算とMIを統合化、企業間で共同のAIモデル

 2024.06.25−EAGLYSは、秘密計算と人工知能(AI)を組み合わせ、あらゆるデータの価値を向上させるユニークな技術を持つスタートアップ。機密性の高い研究データを扱うマテリアルズ・インフォマティクス(MI)に注目し、互いのデータを秘匿しながら協力してMIを推進できる「EAGLYS ALCHEMISTA」を開発、大塚化学とのPoC(概念実証)プロジェクトのフィードバックを反映させ、今年4月から正式版をリリースした。反響も高く、今後の事業拡大が期待される。

 複数の企業がデータを提供し合ってMIの予測精度を高めようとするとき、データを外部に出せないという“秘密”が最大の問題になる。これにアプローチするソリューションはEAGLYS ALCHEMISTAが初である。もともと同社が研究開発していた秘密計算技術をベースに、完全に相手のデータがわからないままで、すべてのAI処理が行えるようになっている。

 とくに、材料メーカーとユーザー企業などが実際のデータを持ち寄ってAIモデルの構築を行うことで、データに基づく実際的な洞察を得ることが可能。相手のデータを加味した自社データの影響度をグラフィカルに表示することにより、どの特徴量が効いているかなど、技術者同士のコミュニケーションも加速する。正式リリースに際して、使い勝手を大きく改善し、データのやり取りや解析結果の考察など、企業間の業務フローがスムーズに流れるようにした。また、データ科学に不慣れな技術者にも使いやすいように、用語解説がヘルプ表示されるなど、細かい点にも気を遣っているという。

 今年秋には機能を追加する予定で、秘密計算下での解析方法として、要望が大きかったガウス過程回帰やベイズ最適化などに対応するため、秘密計算技術として従来の準同型暗号(HE)に代わり、TEE(Trusted Execution Environment)を採用することにしている。CPU(インテルやAMDが対応)に搭載されているメモリー暗号化エンジンを使用する方式で、ハードウエア上の保護領域内に保持している鍵で暗号化されたデータを復号して処理する。

 そのほか、今後のロードマップとしては、1対多のMIプロジェクトに対応させるほか、垂直方向のデータ統合、入力データ種類の拡張(SEMなどの画像データ、グラフデータ、SMILES)、秘匿したAIモデルの組み込みなどを予定。とくに、自社だけでMIモデルを作成するには秘密計算の必要がない。そこで、社内の実験データなどを集め、MIモデルを構築するための自動化機能を開発し、まずはツールとして提供する予定だ。MIとは別の分野の案件でも、モデル構築のニーズが増えており、蓄積したノウハウを反映して高度な自動化を達成したいとしている。

 EAGLYS ALCHEMISTAの正式リリース後の反響は大きく、引き合いは好調。6月からは新しいPoCプロジェクトもスタートしている。化学・材料の知識を持つスタッフの増員も図っており、多くの顧客との実証にも積極的に取り組んでいく。また、7月25日には初のリアルイベント「ALCHEMISTA DAY」を東京・白金台の八芳園で開催する。


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