CCS特集2024年夏:HPCシステムズ
MI支援システムを開発、多様性のある分子構造発生
2024.06.25−HPCシステムズは、ハイパフォーマンスコンピューティング事業と産業コンピューター事業を主軸に大学での研究活動や企業における最先端研究開発を支援するソリューションサービスを提供。1990年代の創業時から量子化学計算プログラムGaussianの移植を手掛けるなど、計算化学に関しては長年の経験を持っている。計算化学のための高性能なハード・ソフトの提供、受託計算サービスなどを行っているが、とくに自社開発したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)支援システム「M-EVO」の開発・普及に力を入れている。
同社は、量子化学計算の利用が大学から企業へと広がりをみせていることを背景に、独自のノウハウでアプリケーションパッケージの開発に進出。これまでに、反応経路・遷移状態計算ソフト「Reaction Plus」を製品化している。反応物と生成物の化学構造を指定するだけで、それらを結ぶ反応経路を自動的に求めることができる。現在は「Reaction Plus Pro2」にバージョンアップしており、NEB(ナッジドエラスティックバンド)法を用いて、反応始状態と終状態を結ぶ遷移状態構造を自動的に求め、反応経路全体を最適化する。計算エンジンにはGaussianを採用。ほかに、半経験的方法を使って計算時間を短縮した「Reaction Express2」も販売している。さらに、北海道大学の前田理教授らと共同開発した化学反応経路自動探索プログラム「GRRM」も提供している。こちらは“人工力誘起反応”(AFIR)と呼ばれる手法を利用。共有結合、水素結合、配位結合、金属間結合、ファンデルワールス相互作用の弱い結合など、あらゆる種類の結合組み換えをともなう化学反応を網羅的に予測でき、立体配座の変化や有機金属錯体の擬回転、そして異なる電子状態間の非断熱遷移経路を見出すことも可能。反応経路ネットワーク全体、反応メカニズム全体を明らかにし、未知の化学反応も調べることができるという。
ブラウザーでGaussianを利用できるクラウドサービス「ChemPark」もあり、月々5,000円でからで始めることが可能。大学の授業などにも取り入れられている。本格的な活用を図りたい場合は、最先端のHPC環境に対応した「サイエンスクラウドサービス」が用意されており、GaussianやReaction Plus、GRRMをはじめ、量子化学計算、分子動力学計算、固体第一原理計算などの各種プログラムを利用できる。
さて、MIに関しては5年ほど前に開発に着手した。M-EVOは2023年から実績があり、概念実証(PoC)プロジェクトがいくつか進んでいる。多様性を持たせた分子構造発生機能を持ち、逆問題解析やベイズ最適化に対応している。とくに、事前にデータを準備しなくてもMIに取り組むことが可能。機械学習を行うためのデータを計算で生成しデータベース化する自動化ツール「AutoMO」が用意されているほか、電子実験ノートからのデータ取り込みとして、同社が出資しているQunaSysの「MIQAN」に対応している。
また、多様性・新規性のある分子構造を発生させて探索できることに加え、合成の経験があるなど自社が得意な領域の近くを重点的に探すなどの実用性も兼ね備えている。実験化学者にも操作しやすいように配慮されており、LinuxやPythonなどの知識は不要だ。M-EVOはクラウドサービスだが、一切のデータをクラウド上に保持しないため、機密性の高い研究データを扱うことにも大きな不安はないという。事例をみると、高分子材料の開発でもいろいろな成果を出しているようだ。