CCS特集2024年夏:化学情報協会
結晶構造DBが強化拡充、解析機能を利用し研究成果
2024.06.25−化学情報協会は、研究開発に利用できるさまざまなファクトデータベース(DB)やソフトウエアを提供中。有機・無機分野の結晶構造DBをはじめ、創薬を支援するライフサイエンス系ソフトウエア、天然物・ポリマーなどの物性に関するオンライン辞典など、幅広い製品を取り揃えている。
なかでも知名度が高いのが英ケンブリッジ結晶学データセンター(CCDC)が整備している「ケンブリッジ結晶構造データベース」(CSD)。X線・中性子線で解析した有機分子性結晶や有機金属化合物の結晶構造DBで、原著論文の書誌情報のほか、異方性変異パラメーター、再結晶溶媒、融点などの物性情報も載せている。この6月時点で結晶構造の登録件数が129万件に達した。四半期ごとにアップデートされているが、今回は1万4,000件の新規化合物が登録されており、そのうち金属有機化合物が約半数を占めるという。個別の金属錯体から金属有機構造体(MOF)まで多岐にわたっている。
また、結晶構造DBを創薬、材料開発、インフォマティクス研究に利用するための支援ツールも提供。DBを中心にした基本ツールを集めた「CSD-Core」、新しい分子を創出するなど創薬研究向けの「CSD-Discovery」、分子集合体を設計するための「CSD-Materials」、この3つをセットにしたパッケージ「CSD-Enterprise」といった製品構成で、ニーズに応じて利用可能。
最近の応用例では、カフェインとアントラニル酸誘導体との共結晶に取り込んだポリマー(ポリエチレングリコール、PEG)の物性を向上させることに成功した研究がある。CSDとそのサブライブラリーである分子間相互作用DBのIsoStarを用いて共結晶構造の解析と構造変換を行ったもの。結果的に、PEGの融点が36度Cから98度Cへ、さらに結晶構造の一部をフッ素に置換することで融点が128度Cまで上昇したという。また、分子のねじれ構造が医薬品設計に与える影響を検証した研究では、検索ツールのConQuestと構造表示ツールのMercuryを活用し、CSDから特定骨格部位のねじれ構造を抽出した解析により、化合物のねじれ構造が生理活性等の強さに影響することを明らかにしている。
近年では、信頼性が高く豊富なデータを機械学習に利用したいというニーズが高まっている。とくに、CSD Python APIを利用し、CSDに直接接続してデータを抽出したり解析したりすることができ、KNIMEやPipelinePilotなどのサードパーティーツールと連携させた処理も可能になっている。こちらも最近の事例では、結晶格子エネルギーの力場計算において、CSDデータの機械学習で導いたパラメーターを用いることで計算値の精度が向上、PythonによるCSDの膨大なデータからの自動マイニングで有機強誘電体の新たな候補化合物を発見、といった成果が報告されているという。