CCS特集2024年夏:モルシス
モダリティ対応創薬基盤、巨大なケミカル空間を探索
2024.06.25−モルシスは、ライフサイエンスとマテリアルサイエンス、研究データ管理の各分野でさまざまな研究開発支援ソリューションを提供。ライフ系は加ケミカルコンピューティンググループ(CCG)の統合計算化学システム「MOE」、マテリアル系は米マテリアルズデザインの材料設計支援統合システム「MedeA」を主力製品として実績を拡大している。
同社はCCGの子会社でもあり、MOEに関してはアジア市場全体の販売を担当している。とくに、代理店を置いている中国で新規ユーザーが毎年増えており、ここ数年の年次ユーザー会はオンラインにて日米中の3カ国語同時通訳で行うようになっている。国内でも、中分子などのモダリティへの対応によってオープンイノベーション型で創薬研究の裾野が広がっており、ユーザーニーズは拡大する方向にあるという。
MOEは、最新版が今月にリリースされたばかり。メディシナルケミストが分子設計で統計解析などを手軽に実施できる「MOEsaic」機能がさらに洗練され使いやすくなったほか、計算のための分子力場もmRNA医薬や核酸医薬などのモダリティに対応できるように機能強化がされてきている。とくに、生体内に備わっているタンパク質分解機構を利用して標的タンパク質の機能を阻害する“標的タンパク質分解”(TPD)が、新しい創薬アプローチとして注目されてきており、これに対応できるMOEへの注目度が高まっている。カスタムプログラム群がSVLエクスチェンジとして公開されており、さまざまなツールを用意。TPD創薬に特徴的な、分子のりで結びつけた三元複合体構造をモデリングするためのいくつかの手法が使いやすいかたちで実装されている。まさに、モダリティ対応を含めた幅広い機能を持つ創薬プラットフォームとして充実しつつある。
また、独バイオソルブITのケミカルスペース高速検索ツール「InfiniSee」の引き合いが活発で、導入実績も増えてきた。10の20乗分子を超える超巨大な組み合わせ空間を効率良く扱えるソフトで、ファーマコフォアプロファイルやフィンガープリントを用いた類似構造検索が可能。新機能として、メディシナルケミストが理解しやすい部分構造検索や最大共通部分構造(MCS)の検索に対応するモチーフマッチャーモードを追加した。開発元から290兆通りの合成可能な分子からなる仮想ケミカルスペースも提供される。化合物ライブラリーがあまりにも大きいと、現時点では人工知能(AI)的な方法では対応しづらくなるとして、こちらの方法を選ぶユーザーも増えているということだ。
一方、マテリアル系ではMedeAの新製品、「MedeA Polymer Expert」の紹介に力を入れる。MedeA自体は第一原理計算や分子動力学計算をベースに、さまざまな材料物性を計算するシミュレーションソフトだが、今回の新製品はやや方向性が異なっている。大規模データベースと構造物性相関(QSPR)技術を組み合わせ、望みの物性値を持つと予測される高分子のモノマー構造を探索することができる。
データベースには、1,300件あまりの既知のモノマーデータをもとに構築した110万件のリピート構造ユニットが登録されている。生物由来の物質であるか否かのフラグも付されており、検索条件に入れることも可能。バイオマス原料への置き換えの検討などにも有効だ。実際に検索に用いる物性値はMedeA P3C(BiceranoによるQSPR手法を実装したプログラム)によって計算され、各種の熱物性、電子・光学物性、力学物性、絡み合いに関する物性、輸送物性に対応している。検索した結果を、MedeAのモデル構築ツールやシミュレーションツールと組み合わせることにより、さまざまな分子シミュレーションを実行することもできる。