CCS特集2024年夏:QunaSys
材料開発向けの生成AI、量子化学計算をサポートへ
2024.06.25−QunaSys(キュナシス)は、量子コンピューターの「社会実装」に貢献するため、独特のアルゴリズムやソフトウエアの研究に従事するスタートアップ。量子コンピューターの優位性が確実視される分野として量子化学計算に注目し、さまざまな取り組みを進めてきている。材料開発の最前線で活躍する企業研究者を対象にしたコミュニティ活動「QPARC」が第5期に入っているほか、新たに生成AI(人工知能)で注目されている大規模言語モデル(LLM)の実用化を目指すコンソーシアム「材料開発LLM勉強会」を旗揚げした。
同社は、今年4月にケミカルリサーチソリューション事業部を設立し、計算化学分野への取り組みを強化した。本格的な量子コンピューター時代における実応用に向け、ステップバイステップでの課題解決を図っていく方針で、その1つが今回の「材料開発LLM研究会」だ。現時点の計算化学は実験とは距離があり、適切に利用するためには専門の計算化学者の支援が欠かせない。そこで、コンソーシアムの主な狙いは計算化学に親和性のあるLLMを構築すること。実際の方向性はコンソーシアム活動を進めていく中でメンバーの意向を踏まえながら決まっていくものだが、基本的に非競争領域で共有資産となるような成果を目指していく。とくに、参考となる技術文献を持ち寄って、それをLLMに検索・参照させ、回答精度を向上させるRAG(リトリーバル・オーグメンテッド・ジェネレーション、検索拡張生成)と呼ばれる技術に取り組むことを考えているという。
6月27日に第1回勉強会が開催され、これを皮切りに最初の3カ月間でレクチャープログラムを提供。東京工業大学物質理工学院の畠山歓助教、東京大学生産技術研究所の溝口照康教授らの専門家が講義を行うほか、実際のLLMに触れながら活用法などを考えていく機会となる。後半の3カ月はユースケース探索プログラムとして、オープンデータなどを活用しながら先行する研究やユースケースの再現・探索に挑戦していくという。いまのところ、材料研究におけるLLM利活用を議論する場そのものがないのが現状であり、関心のある研究者にとってはまたとない機会になるはずだ。
一方で、量子コンピューターのハードウエア開発も、国内外でいろいろな方式で進行している。同社では、そうした動向をにらみつつ、化学を含めた産業用アプリケーションの量子アルゴリズム開発を進め、ハード/ソフト/ユーザーが連携して量子コンピューターの社会応用を図るエコシステムづくりへの貢献を果たしていく。