CCS特集2024年夏:ウェイブファンクション

ニューラルネットで加速、モデリングソフトの最新版

 2024.06.25−ウェイブファンクションは、分子軌道法をベースにした分子モデリングソフトの最新版「Spartan '24」を5月に発売した。1991年からリリースされている歴史ある製品で、産業界と学術界の両方で普及し知名度も高い。とくに、わかりやすい操作性が特徴で、大学の学部生や高等専門学校(高専)に向けた教育用途でも活用されており、教職員間での口コミや学生が就職後に利用するなどのかたちでもユーザーを広げている。

 最新版のSpartan '24は、Windows、Macintosh、Linuxの全プラットフォームですでに発売済み。パッケージの製品構成は、前バージョンのSpartan '20と同じで、利用できるCPUコア数が16コアまでと16コア以上の2つに分かれている。ドル建て価格は据え置かれているが、日本価格は為替を反映した是正が行われ、1年間のサポート付きの場合、前者が95万400円(民間)、63万3,600円(政府機関)、33万円(教育機関)、後者は同様に142万5,600円、95万400円、49万5,000円となる。

 とくに、最新版には独自に開発した5つのニューラルネットワーク(NN)モデルが組み込まれており、配座異性体のエネルギー計算(分子力学)、密度汎関数法(DFT)による構造予測、異性体のエネルギー計算(ボルツマン分布)、エネルギー計算の改善、マルチステップのワークフローなどの処理性能を劇的に改善できる。とりわけ、天然物などの複雑で柔軟な分子構造を核磁気共鳴(NMR)データを用いて自動的に決定する「DFTを利用した化学シフト計算機能」を主な対象としており、前バージョンまでで計算レシピとして一連の計算手順を自動化しても、計算負荷により何十時間もかかっていた処理を、秒・分の単位で高速化できるとしている。

 まず、分子力場計算を行わず、NNで配座異性体間のエネルギー差を精密に見積もることで、次の段階に引き渡すべき配座異性体を効率良く絞り込む。次に、各配座のボルツマン分布を求める量子力学計算を別のNNに置き換えている。比較的単純な有機分子でも数百から数千の配座数を持つことがあるため、まともに量子力学計算をすると実用性に制限があったため。さらに、より複雑で柔軟な基底関数系を使用した量子力学の反応エネルギー計算精度を再現できるように学習したNNを利用し、最終的な化学シフト(NMRシフト)を求めるという流れである。

 Spartan '24では、こうした立体配座解析の一連の機能のほか、SSPD(スペクトルおよび物性データベース)、DFT計算結果データベース、天然物データベース、遷移状態データベースの更新、ユーザーデータベースの構築機能の強化などが行われる。量子力学の計算エンジンはキューケム社の「Q-Chem」が使用されているが、最新版に相当するアップデートも年内に予定されている。

 同社の日本支店では、最新版へのスムーズな移行に力を入れる方針。今年の日本化学会や日本薬学会でも紹介したが、本国ではすでに最新版の情報が出ていたため、早くアップデートしたいという熱心なユーザーも来場したという。まだ検討中だが、今年から来年にかけては日本農芸化学会や日本医学放射線学会などやや系統の異なる学会にも出展し、さらに裾野を広げる活動にも乗り出していく。また、今回のハイライトともなっている化学シフト計算機能は弘前大学の橋本勝教授らとの共同で開発されたものであり、今後の本質的な機能強化に向けての議論や検証も日米で順次進めていきたいとしている。


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