CCS特集2025年夏:ダッソー・システムズ
バーチャルツインを活用、LLMなどAI応用も進展
2025.06.24−ダッソー・システムズは、2040年に向けた長期的な構想として「3D UNIV+RSES」(3Dユニバース)を打ち出しており、その中で生物、化学、素材・材料を高度にモデリングするBIOVIAブランドの位置づけも重要性を増している。バーチャルとリアル(V+R)が融合して新たな価値を創出するという考え方で、機械や構造物、都市空間、さらには人体や生命までも含め、バーチャルツインを活用して現実世界を改善しようとしている。複雑な現象や特性を理解するためには、分子レベルのミクロな視点が重要になっている。
3Dユニバースは、3Dデザインの第7世代に当たるビジョンだと位置づけられており、現時点は第5世代のバーチャルツイン技術が産業界で活用され始めている。そして、第6世代は「バーチャルヒューマンツイン」であり、心臓、脳、肺、皮膚、腸、細胞などをバーチャルツイン化するプロジェクトを進行させている。このうち、バーチャル腸プロジェクトとして、フランス国立衛生医学研究所(INSERM)との共同研究で、腸と脳の関係に注目し、複数の臓器から分泌される代謝産物を洗い出し、分泌条件や分泌パターンをモデル化、腸脳関係における腸内細菌の役割を検証しているという。とくに、腸内細菌の多様性に関わりの深い胆汁酸をテーマにした研究が進んでいる。同社では、「バーチャルツイン・アズ・ア・サービス」として研究環境を提供しており、研究内容に合わせて一緒にモデルづくりを行うこともあるとしている。
現在のBIOVIA事業としては、クラウドサービスにおいてV+Rのバーチャルツインを利用した素材・材料開発を支援。リアル側では、電子実験ノート、材料マネジメント、配合設計、LIMSなどの機能を材料研究ニーズに応じて強化してきている。バーチャル側は、食品・化粧品を対象にした配合設計時に素材・成分のグローバル法令チェックを行う「バーチャルコンパニオン」、その解析のためのワークフローを作成するための「パイプラインクリエーター」、COSMO-RS法と機械学習を組み合わせて物性予測を行う「バーチャルベンチ」、リアル側からのデータを取り込んで活用する「機械学習ワークベンチ」などのソフトウエアが提供されている。
人工知能(AI)関連では、材料モデリング統合環境「マテリアルスタジオ」向けに機械学習力場(MLP)の「MACE」をリリースした。SymmetricグループLLPとの連携によって5種類の力場が用意されており、既存の力場が存在せず計算できなかった系への対応が可能。将来的にはユーザーが再学習させて自分のMLPをつくる機能も提供したいという。また、「パイプラインパイロット」に大規模言語モデル(LLM)コレクションが追加された。文字情報を中心にしたLLMに、化学構造に内包される化学的な意味や、配合設計における各種制約条件などを理解させるようにするもの。LLMを使って化学構造や配合を生成させることが可能になる。さらに、逆合成解析を行う「リアクションプランナー」(近日リリース予定)は、AIによるスコア計算によって反応の前駆体やルートを予測するもので、電子実験ノートと連携して利用することができる。
なお、BIOVIA事業の近況としては、化学・食品などの業界向けに電子実験ノートが好調。1,000ユーザー規模の大型案件の受注が続いている。この1年間でトップシェアの地位確立を狙いたいという。ユーザー数が多くなっているため管理機能を強化することや、写真や動画を含めたマルチモーダル型のデータアーカイブ機能の強化を図る。一方、「マテリアルスタジオ」は今年が発売25周年の年であり、GPU対応の強化、材料科学オープンデータベースOPTIMADEとの連携、量子コンピューティングへの対応などを進めるほか、記念イベントの開催なども計画している。