CCS特集2025年夏:計算科学振興財団
「富岳」の産業利用促進、ワンストップで手続き簡便
2025.06.24−計算科学振興財団(FOCUS)は、スーパーコンピューターの産業利用を促進するため、産学官の連携協力により設立された公益財団法人。産業利用向けの「FOCUSスパコン」を整備し、企業ユーザーが初めてハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)に挑戦する際の“スタートアップ”、「富岳」を始めとする国のスパコンを活用するための“ステップアップ”を支援することを主な役割としている。
日本では文部科学省主導のもと、全国の大学・研究機関が保有するスパコンを結んで共有する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ」(HPCI)が形成されており、そのフラッグシップが「富岳」である。FOCUSも分担機関の1つとして産業利用の拡大という目的を担っている。
「FOCUSスパコン」は、さまざまなアーキテクチャーの12システムが稼働中で、トータルの理論最大性能は653テラFLOPS(倍精度)、メモリー容量は54テラバイト、ストレージ容量は1,526テラバイト。昨年末から今年の初めにかけては、人工知能(AI)や機械学習に適した加速器を持つシステムを増設した。2011年の供用開始以来、2024年度末での正味累計利用数が464法人、実施された累計課題数は759件で、「富岳」産業利用法人のうち75%にFOCUSを利用した経験があるという。
さて、FOCUSでは7月から「富岳」の産業利用をさらに促進する新サービスを開始する。これは、新設された『「富岳」アプリケーションサービス課題』における事業者として、FOCUSが採択されたことによるもの。企業ユーザーがより円滑に「富岳」を利用できるようにすることを目的としている。
従来、「富岳」を利用しようとすると、利用者は個々に課題申請書類を作成する必要があり、選考審査にも時間が必要。また、成果を公開したくない場合は有償課題へ応募することになるため、費用も高くなってしまう。さらに、利用サポートやアプリケーションの整備にコストと手間がかかっていた。
今回、FOCUSが提供するサービスは、通常の成果非公開型(従量制)利用料金よりも低い価格を設定。利用手続きも簡便化され、利用者はFOCUSに簡単な利用申請を行うのみで申請が完了する。課題内容を詳しく記す必要もない。さらに、成果報告書の提出は不要で、成果も非公開。また、FOCUSによる計算資源手配、技術支援のほか、アプリケーションベンダーから受けるサービスについても、必要に応じてFOCUSがアレンジし、支払いも一本化したワンストップサービスを提供する。そのほか、「富岳」上でのジョブの優先実行権があり、短時間で課題解決できることが期待されるという。
FOCUSでは、今回の課題に先立った『「富岳」クラウド的利用に向けた産業用アプリケーション実証』(理化学研究所とのフィジビリティスタディ)で計36機関に対する施行実績があるほか、理研の共同運営によるコンソーシアム型の『「富岳」産業試行課題』にも取り組んできている。こうした経験や知見を活用し、付加価値の高い利用をサポートしていく。