CCS特集2025年夏:富士通
英仏のチームで実績拡大、AIエージェントで自動化
2025.06.24−富士通は、創薬研究・CMC、開発・臨床試験、生産・サプライチェーン、販売・マーケティングまで医薬品研究開発のライフサイクル全体を網羅する“Virtual Pharma”として製品体系を整備。自社や海外パートナーの優れた技術・製品を提供するとともに、英と仏にもチームを置き、創薬に関連したサービス事業も拡大させてきている。
国内で実績が増えているのは、医薬品省令ガイドラインに対応したQA/QCソリューション。安全性試験管理の「LabSite」、品質試験管理の「qcLIMS」、国際基準準拠の文書管理/プロセス管理/教育管理/監査管理/製造記録の電子化などのモジュールで構成されるトータル品質管理ソリューション「MasterControl」、規制対応文書管理の「Documentum」などを持っている。電子実験ノートによるラボデータの統合なども含め、データ管理での強みを発揮している。
海外チームの活動では、英チームが主導している化合物発見サービスの実績が拡大。数百億から数兆という巨大な化合物ライブラリーから物理化学的性質やADMET、合成可能性などを考慮して絞り込むことは組み合わせ最適化問題の典型であり、同社が得意とする量子インスパイアード技術を駆使することにより、トリリオン級(数兆)の化合物空間から100万以下のフォーカスドライブラリーを構築することも容易となっている。そのために、デノボでのライブラリー創出を行う専用プログラム「QIMERA」を英国チームが開発したという。
人工知能(AI)に長けた仏チームは、「クロマトグラフィーオンデマンド」というサービスを展開中。クロマト試験を請け負い、データ解析や物質の同定をAIを利用して効率的に行う。製薬業だけでなく、食品関係の不純物分析などでもニーズがある。今後は日本からの仕事も受注したいということだ。
一方、創薬研究を支援するパッケージでは、国内でペプチドリームと共同開発した「Biodrug Design Accelerator」を海外展開する計画が進んでいる。パートナーの英クレセット社が今年からマーケティングを開始しており、すでにメガファーマで評価中のところもあるという。富士通はクレセット製品の「Torx」を日本で販売しているが、こちらも実績が出始めている。医薬品開発のDMTA(設計・合成・評価・分析)サイクルを支援するコラボレーションプラットフォームで、CRO(医薬品開発受託機関)との連携時に役立つ。分析機器との連携を図る目的では米サイタラと販売契約を結び、「Scitara DLX」を提供している。ラボ用のデジタル的なコアであり、各種の実験・計測システムやさまざまなソフトウエア群に対して統一的なデータ連携が可能になる。
新製品では、米ナノームが開発した「MARA」(Molecular Analysis and Reasoning Assistant)が興味深い。大規模言語モデル(LLM)を利用したAIエージェントで、自然語/会話文でのさまざまな命令を理解してくれる。Pythonスクリプトで各種計算ツールやデータベースとAPI連携し、創薬研究、材料研究、計算化学、分子モデリングなどを自動化することが可能。「PDBから7L10をダウンロードしてリガンドを除き、ドッキング用に構造を調整してください」「バインディングポケットはどこですか」「ポケット1番に対してrupintrivirをドッキングさせてください」といった会話口調で命令することができるという。
そのほか、材料科学研究向けでは、第一原理計算結果を機械学習して、高精度な分子動力学(MD)計算を超高速に実行するためのニューラルネットワーク力場(NNP)を作成するツールを開発しており、ユーザーとの間でPoC(概念実証)/PoV(価値実証)プロジェクトを推進中。汎用力場ではなく、計算したい系に合わせたNNPを自分で作成できるようにすることを目指している。2万原子系/30ナノ秒間のMD計算を8日間で完了するなどの成果が出ているという。事前学習済みのAIモデルを利用することにより、少ない訓練データ数であっても精度向上が期待できるほか、富士通が提供する計算資源を使い分けることで高速なデータ生成と訓練が可能。数万オーダーのデータ生成からNNPの訓練までを最短1日で実行できるという。NNPを利用した計算は、計算化学統合プラットフォーム「SCIGRESS」で行うことができる。