CCS特集2025年夏:HPCシステムズ
化学反応経路を自動探索、MI関連もPoCなど成果
2025.06.24−HPCシステムズは、計算化学やデータサイエンス、CAE、そしてオンプレミスからクラウドまで、あらゆる領域で研究開発を支援。化学研究のためのパッケージソフトウエア開発・販売、それを動かすためのHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)システムの構築、クラウド利用にともなう各種サービスなどを提供している。
同社がとくに力を入れているのが、北海道大学の量子化学探索研究所と共同で製品化している反応経路探索ソフトウエア「GRRM」。北海道大学の前田理教授らのグループが開発を続けているもので、すでに300以上の組織で利用されている。海外でも普及しており、米、加、仏、独、韓、台にユーザーがいるという。量子化学計算に基づいて化学反応経路を自動的に予測する技術が組み込まれており、1つの分子をインプットすると、そこから生成されうるすべての生成物や、それを生成しうるすべての反応物、そしてそれらすべての反応経路を網羅的に探索できる。
パッケージ製品の「GRRM20」は、非調和下方歪み追跡法(ADDF)と、人工力誘起反応法(AFIR)を実装し、反応物の情報から量子化学計算に基づいて、中間体、遷移状態、生成物、副生成物などを自動的に探索する。複雑反応系では、速度定数行列収縮法(RCMC)と呼ばれる速度論解析手法を利用して解析することも可能。通常はGaussianなどのプログラムで量子化学計算を実行するが、昨年からPreferred Computational Chemistry(PFCC)の「Matlantis」を使用することも可能になった。機械学習力場で高精度な分子動力学計算を行うため、計算時間を大幅に短縮できる。
また、新しい「GRRM23」には、GRRM20の機能に加え、量子化学的逆合成解析(QCaRA)機能が搭載されており、逆向きの反応速度論的解析を行うことで、目的生成物を合成する経路を選択的に探索することができる。天然物を含め、合理的な経路予測ができていることが論文などで報告されている。実験化学者が思いつかないような反応も出てくるということだ。ユーザーが開発した外部モジュールを用いて構造最適化や探索を制御する機能も持っており、局所最小値付近の探索順序を変更したり、局所最小値から探索される経路を変更したり、システムに外部バイアスポテンシャルを適用したりすることが可能。
一方、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を支援する自社製品「M-EVO」は、ユーザーとのPoC(概念実証)プロジェクトで成果が上がってきている。逆問題解析で目標の物性を備えた多様な構造を発生させることができるのが特徴。複数の目的変数を考慮でき、合成の可能性や溶剤溶解性などの指標も含めたスコアを算出するなど、実用的な分子構造の探索が可能。ベイズ最適化により、組成物や製造条件などの最適化も行える。