CCS特集2025年夏:Preferred Computational Chemistry
機械学習力場の機能充実、グローバル展開も本格化へ
2025.06.24−Preferred Computational Chemistry(PFCC)は、独自の機械学習ポテンシャルを利用して自然界の全元素を対象にできる汎用原子レベルシミュレーター「Matlantis」をクラウドで提供している。すでに利用者は100社以上、600ユーザーの規模に拡大しており、海外での利用も着実に広がってきている。
同社は、深層学習を得意とするユニコーン企業であるPreferred Networks(PFN)と材料研究のノウハウを持つENEOSの合弁でスタートした企業で、昨年には三菱商事が出資するとともに、海外展開も本格化させた。クラウドサーバーは日本、米国、欧州に設置しており、インドやサウジアラビアなどの新興国にもすでにユーザーがいる。とくに、米国市場については、今年5月から子会社「PFCC .Inc」がマサチューセッツ州にオフィスを構えて始動しており、今後の事業展開が期待されている。また、関連学会である日米欧のMRS(Materials Research Society)の国際会議に参加し、研究発表を行うなど、先進技術のプロモーションにも余念がない。
同社の機械学習ポテンシャルは“PFP”(Preferred Potential)と呼ばれており、親会社のPFNが所有するスーパーコンピューター資源を大量に使用し、大規模に実施した密度汎関数法(DFT)計算結果を学習させている。Matlantisは、PFPを用いた分子動力学計算を実行することにより、DFTと同等の精度の計算結果を超高速に得ることが可能。昨年9月にリリースされた最新バージョン7は、原子番号96番までの全元素(最初のバージョンから41元素増加)、計算可能な系のサイズが4万4,000原子(同じく15倍)、トレーニングデータ数は59×10の6乗(同じく6倍)となっており、クラウドサービスにはJupyter NotebookとPythonを経由して簡単にアクセスできるため、実験研究者が自分で操作して日々の意思決定に活用する企業もあるという。さらに、計算精度の向上をメインに機能強化したPFPバージョン8も近く提供開始する予定だ。
一方で、目的物質に特化した機械学習ポテンシャルを求める声も出てきていることから、昨年にユーザー自身でポテンシャルを作成できる「LightPFP」のβ版を提供。今年から正式版にバージョンアップしたことで実績も出始めている。学習させたい化合物をMatlantisで計算することによって大量のトレーニングデータを生成し、それを深層学習させることで目的物質に特化したポテンシャルを生み出す。効率的に学習できるようにデザインされているため、通常は数ヵ月かかる作業を数日で終わらせることが可能。結果的に元のPFPよりも計算負荷が軽くなるため、計算速度はPFPよりも10倍高速であり、82万原子といった大規模・長時間シミュレーションにも対応することができる。
昨年10月、同社は第1回Matlatisユーザー会を開催し、72社/200人以上の参加者を集めた。今年も10月8日に東京コンファレンスセンター・品川での開催を決めている。前回に好評だったユーザー事例講演を拡大し、ポスターセッションも行う予定で、多くの事例を披露したいという。Matlantisを用いた研究論文も、昨年は前年の10報を大きく超える30報が出版されており、知名度・認知度は確実に高まっている。