CCS特集2025年夏:QunaSys
モデルベース開発を志向、量子コン活用に向け評価も
2025.06.24−QunaSys(キュナシス)は、量子コンピューターがもたらす新たな価値の創出と技術基盤の確立を目指すスタートアップ。量子コンピューターの研究開発に役立つソフトウエア開発環境やアルゴリズムライブラリーを提供する一方、量子技術の活用を踏まえた応用領域の開拓や実応用のための技術開発に取り組んでいる。その一環でケミカルリサーチソリューション(CRS)事業部を設立し、材料開発の革新を実現するためのサービス展開を図っている。
同社は昨年、生成AI(人工知能)の大規模言語モデル(LLM)を材料開発に適用するためのコンソーシアムを実施し、材料メーカーの研究者らを集めて実践的な取り組みを進めてきた。コンソーシアムでの経験を生かして実問題への適用を図るユーザーも出てきたため、今後はコンソーシアムというスタイルではなく、個別の案件に寄り添って支援するサービスを展開していく。ただ、同社としては、コンソーシアムでの成果を反映させたパッケージ型のサービスを製品化する計画も立てているという。
また、コンソーシアムを通しての気づきは、材料開発に計算化学を活用するために、物理化学的な考察・解析に基づくモデル化が重要だということ。これは“モデルベース開発”という考え方で、自然科学の4本柱といわれる実験・理論・計算・データを真に融合するアプローチを指している。理論に裏打ちされた数理モデルを構築することにより、支配的に効く説明変数の決定、および目的変数の予測が可能。単に実験を計算に置き換えるのではなく、仮説やモデルに応じて必要な場合は実験をし、戦略的に計算によるデータも加えて蓄積していく。実験と理論の同期を取るステップを研究フローに組み込んでいくことも重要になる。仮説を要素分解してフォーカスを決定したり、モデル構築や必要データを構造化したりする過程でLLMが役立つとみられるほか、計算を実行する面で将来的には量子コンピューターの活用が期待されるところだ。
一方、量子コンピューター向けのクオンタムソリューション事業部の最近の活動としては、量子コンピューターのハードウエア性能や特性を独自に評価したベンチマークを行う「QURI Bench」を開発し、プレビュー版を公開している。これは、量子コンピューターの一般的な性能を評価したものではなく、化学と物性物理の分野で統計的位相推定アルゴリズム(SPE)を使用した際の性能を割り出したもの。主要メーカーのハードウエアのロードマップから、2035年までの期間において分子軌道や格子サイズといった基準でどの程度の性能が期待できるかを明示したもの。多様な方式・メーカーが乱立する中で、各ハードウェアとアプリケーションの相性に関する客観的評価を事前に得ることで、量子コンピュータ活用の試行錯誤を減らすことに役立つ。
そのほか、量子コンピューターの用途開発を受託研究スタイルで手掛けるリサーチ事業部では、現状のNISQ(Noisy Intermidiate-Scale Quantum)マシンで高精度のエネルギー計算を可能にするQSCI(Quantum Selected Configuration Interaction)法を実機を用いて検証した。これは、ENEOSとの共同研究の成果として発表されているもので、量子コンピューターの使用を量子サンプリングに限定することにより、分子基底エネルギーの量子計算が高い精度で収束することを確かめた。