CCS特集2025年夏:シュレーディンガー

実験と同等の高精度計算、モデリングサービス受託も

 2025.06.24−シュレーディンガーは、最新のサイエンスを駆使した“デジタルケミストリー創薬”に基づくソフトウエア事業と創薬事業を両輪とし、ライフサイエンスの発展を支援している。とくに実績が多いのが、実際のアッセイ実験と同等の精度で、ターゲットに対する化合物の結合自由エネルギーを評価できるシミュレーションソフトウエア「FEP+」。インシリコスクリーニングの基盤技術として広く利用されている。最近では、単にソフトを提供するだけでなく、実問題への適用に向けたモデリングサービスとしての展開も拡大している。

 同社のモデリング&シミュレーション(M&S)は、医薬系と材料系の両方で先進的な手法を提供しているが、とくに医薬分野では「FEP+」の存在感が大きい。計算による評価を実際の実験と同列に扱うことができるためだが、それには精密なタンパク質構造が不可欠であり、クライオ電子顕微鏡のデータやアルファフォールドなどで組み立てたデータでは解像度が足りない。そこで、タンパク質構造をリファインメントするのにノウハウが必要。また、「FEP+」の実行に当たってもパラメーターを最適化するための多くの試行錯誤が必要となる。「FEP+」自体の計算が重く、GPUが必須であるため、大量の計算資源を用意する必要があった。このように、フル活用するための敷居が高いという問題があったという。

 そこで同社では、デジタルケミストリー創薬の適用を支援するモデリングサービスの提案に力を入れている。ターゲットになるタンパク質構造をリファインし、「FEP+」のパラメーターを最適化、実際に計算結果・評価結果を求めるまでを受託している。こうしたノウハウをユーザーにトランスファーすることもあるという。同社には創薬研究の幅広いステージを網羅するソフトウエアが揃っているため、広大な化合物空間からヒットを探索するバーチャルスクリーニング、主に「FEP+」が活躍するリード化合物の最適化、さらには新奇な構造を生み出すデノボデザイン、体内動態や毒性の予測、製剤化に向けての結晶多形予測など、さまざまなニーズに合わせて受託サービスを展開している。

 一方、最近のトピックスとしては、レジデンスタイムの計算が注目されている。これは、リガンド分子がタンパク質に結合してから離れるまでの時間で、結合強度に関する実験値と相関が強いとされるものだという。薬物分子の結合強度をコントロールするためには、このレジデンスタイムがカギになる。MDプログラムのDesmondで計算するが、とくに分子が離れる際の計算に特殊なノウハウが必要だとしている。

 そのほか、人工知能(AI)関連では、「FEP+」の計算結果を学習させてAIモデルを訓練することや、化合物生成AIの開発にも取り組んでいる。毒性予測では、昨年に大株主でもあるビル&メリンダ・ゲイツ財団から1,000万ドルの資金を得て、物理ベースと機械学習の両方を活用した毒性予測技術の開発に取り組んでいる。動物実験を減らすという目的もあるようで、この研究成果も期待される。

 なお、シュレーディンガーセラピューティックグループ(STG)が推進する創薬事業は、具体的な医薬品創出を目指すもので、製薬会社とのコラボレーションで、探索段階から臨床試験の第3相まで19件のプロジェクトを進行中。さらに、自社創薬を行っている単独のパイプラインも8つ以上走っている。その中の「MALT1」と呼ばれる血液細胞がん治療薬は、臨床第1相試験の結果を近く学会発表するということだ。


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