CCS特集2025年夏:TSテクノロジー
社内開発ツールを公開へ、国際会議で独自の研究成果
2025.06.24−山口大学発ベンチャーのTSテクノロジーは、大学で培った計算化学の技術とアイデアの民間普及という使命のもと、設立から17年目に突入した。計算化学や研究DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する経験や知見を最大限生かし、革新的なアイデアと情熱で、顧客とともに未来を切り開くベストパートナーを目指している。昨年、ホームページを一新し、技術情報などの発信を強化したほか、内部での研究用に自作したプログラムの公開・外販にも力を入れていく。
このほど新しく公開したのは「Log2crd」。量子化学計算ソフトGaussianの出力ファイルから構造最適化されたアーカイブを抽出して、その構造をあらためて計算するための入力ファイルを作成することができる。操作は、Gaussianのlogファイルをブラウザー画面上にドラッグ&ドロップするだけ。このような目的で使えるツールはほかになく、多用する操作であるため社内で作成したという。Gaussian利用者は国内にも多いことから、要望があって公開した。同社はこうしたツール提供を今後ともホームページから行っていく計画で、Gaussianで計算したUVスペクトルから実際の色を予測するプログラムなどを予定しているようだ。
一方、同社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」(プロジェクトリーダーは中部大学の山本尚教授)に参画し、その一部である「合成プロセス設計技術の開発」における実施機関を担当している。合成経路設計支援システム(AIst-syn、AIPHOS/KOSP/TOSPなど」と同社のキネティクス(反応速度)シミュレーションソフト「Kinerator」を組み合わせて計算によるスクリーニングを行い、物質設計から商業化までの研究工数を5分の1に削減することを目指している。プロジェクト期限が最終年度に入っているが、スクリーニング予測精度の向上には引き続き取り組んでいる。
とくに、このプロジェクトの派生技術として生まれた独自の「TSモチーフ法」が注目されている。新規の合成経路を評価するためには、量子化学プログラムによる遷移状態(TS)の活性化自由エネルギー計算が必要だが、この計算のコストが高いため、機械学習による方法で同エネルギーを予測しようというもの。原子種の異なる反応であってもTS構造が幾何学的(主に化学結合が生成あるいは切断される距離)に類似したものが多く存在することに着目し、ある反応のTS構造から他の反応のTS構造を効率的に探索する方法となっている。現在は、データが多いディールズアルダー反応に絞って、予測精度を高める研究に取り組んでいる。TS分類をもとにした複雑反応系の予測モデル構築も進めている。
同社は、22日からノルウェーのオスロで開催されている計算化学国際会議「WATOC 2025」で口頭発表並びにポスター展示を行っている。TSモチーフ法の研究発表を行うほか、NEDOプロジェクトの社会実装に向けて、来年度からのサービスを目標にしているRaaS(サービスとしてのリサーチ)構想も語られるという。このユーザーインターフェイスは「πDigichemy」の名称ですでに開発中だという。